全国地域生活定着支援センター協議会は、矯正施設を退所した高齢・障がい者の社会復帰と再犯防止を支援し、全国のセーフティーネットの構築に邁進します。

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2016-09-07 (水) 15:16:24

府中刑務所における障がい者対象の教育プログラム

赤平守氏

府中刑務所内の教育プログラムの一つである「福祉講話」(毎月2回実施)は、平成24年4月から始まり、前東京都地域生活定着支援センター長・前全定協理事である赤平 守氏が平成28年3月31日までの4年間、講師を務めました。この講話に参加できたのは、府中刑務所内の知的などの障害のある人か、その疑いがある人たちでした。全定協では、この「福祉講話」を、平成25年2月から、1~2カ月に一回、平成28年3月31日までの3年間、参観と報告をしました。

赤平氏についてはこちら

府中刑務所における「社会福祉講話」を終えて(3)

福祉講話の講師へのインタビューの最終回です。

インタビュー(3)

◆終わりに
改めて、社会福祉講話を聴講させていただくことができたことに感謝しています。赤平氏の語りのなかによく出てくる“あの雰囲気”“あの空気”をこれまで、ここネット上に掲載してきた文章で、どれだけ皆さんに伝えることができたであろうかと省みるとやはり不十分だと言わざるを得ません。

私たちはインタビューをさせていただきながら、講話の時間の赤平氏の顔を思い出していました。講話が始まる挨拶の瞬間、赤平氏がワクワクしている顔に変わっていくのが見て取れる。そして背中越しにしか見えなかったけれども、なぜか受講生も同様の顔を想像できるのが不思議でした。この両者の距離感にも驚きました。なぜこんなに近いのだろうか。勿論、物理的な距離ではありません。赤平氏は受講生一人一人に向き合っているのです。赤平氏は相手の反応に応える自信があるのかもしれない、とも考えていました。聞くと、赤平氏は「自信ではなく実践の積み重ねからできた確信があるのだ」と言いきりました。でもそれは相手があってこそ、失敗があってこそ成り立つものです。相手が私を受け入れてくれている実感を持てなければその確信は持てません。つまり、相互作用から生まれてくる距離感なのです。

“あの雰囲気”“あの空気”は、赤平氏だからこそ成し得る“技”なのか?赤平氏の人となりに違和感を持ちつつ、それでも今回の赤平氏の語りには、人を支援するという立場にある者にとって重要なエッセンス、課題を残してくださっていると思います。

受講生の一人であったEさんに出所後、お話を聞かせていただく機会がありました。Eさんは精神に障害のある方です。赤平氏によると、講話の受講生の中でも一番反応が早く、話し出したら止まらない、決して自分の信念を曲げない、そのことから起こる失敗で累犯となった人だそうです。そのEさんは「赤平先生には失礼かもしれませんが、何も講話の内容は覚えていませんよ。少し知識が増えた気がする程度ですね」とのことでした。しかし、ものの一分も経たないうちに「赤平先生がいなければ自分はここにはいなかった、こうして生活できているのは赤平先生のおかげです」という言葉が返ってきたのです。そしてそれは「赤平先生は愛のある方ですから」と。正直、Eさんの言っていることは本当なのだろうか・・・と疑ってしまいます。私たちを、そして赤平氏を喜ばそうと気を使ってくれたのでしょうか。それでも、Eさんの人生のなかで“赤平先生”との出会いは意味があったのだということは感じ取れます。意味のある出会いには、赤平氏が“対等であること”を大事にした関わりがある。この関わりがあってこそ成り立つものではないでしょうか。

とはいえ、赤平氏は大事にしてきたと言いつつも、実はあまりにも自然体で努力しなくても対等な関係性を作りだしているように見えていました。それを指摘すると、赤平氏はこんなことを漏らしていました。

「なんだかんだいっても初めの頃はどうにかしなきゃ、形を残さなきゃと思ってたんですよ。初期の頃は、講師と受講生という形の臨戦態勢だった。それが彼らを知るうちにその鎧を脱ぎ捨てなければならないと考えるようになった。Aさん、Bさん、Cさんのエピソードを思い返してもわかることだけれど、1対多の対峙する関係ではなく、1対個の関係があるということがわかった。だからこそ対等な関係になったのだと思います。彼らを知れば知るほど、彼らが望んでいるものが、大それたものではなくて一人ひとりのささやかな幸せだということに気づかされるわけです。振り返ってみると、気づかぬうちに、彼らが喜ぶことが自分の喜びになっていったんです。」

―気づかぬうちに、彼らが喜ぶことが自分の喜びになっていった― この言葉にハッとさせられます。“あの雰囲気”“あの空気”は、赤平氏が時間をかけ、試行錯誤して辿りついた結果なのだと。結果だけではなくプロセスが大事であり、また、決して関係性を軽んじてはいけないということでしょうか。赤平氏がよく口にされている「特別な人のための特別な人による特別な支援ではない」という表現とつながります。

赤平氏や受講した方へのインタビューを通して、「支援」そのものの方向性がどこにむかっているのかということを問われている・・・、と私たちは感じました。

先ほども触れましたが、私たちが聴講させていただいた講話の99%は受講生を背中越しでしか見ることができませんでした。しかし、受講生が教室に入ってくる瞬間は彼らの顔を見ることができます。受講生の一人ひとりが赤平氏の前を通るときに、赤平氏に挨拶や言葉をかけて席に着きます。今日はどんな話になるのだろうという期待と大事な時間であるからこその心地よい緊張・・・。受講生たちの喜びの瞬間が表れていたと振り返ります。そして聴講する私たちもまた同様だったのだと。

講話を通じて出会った皆様に感謝を込めて
2016年8月

府中刑務所における「社会福祉講話」を終えて(2)

福祉講話の講師へのインタビューの続きです。

インタビュー(2)

―受講生が出所後に役立ててほしいこと―
ほとんどの人は、出所後、社会で会う機会はない人です。それぞれの生活に追われてこの講話を思い出すことはないかもしれません。それでも良かったって言ってくれる人はいましたよ。出所後頻繁に会う機会があって、会えばかならず言ってくれます。「赤平先生の話を聴いたから今も刑務所に戻らずにいられる」「福祉講話を聞いたから今の自分がいる」とか。セリフを丸覚えにした売れない役者みたいですけど。それでも覚えてくれている、忘れていないっていうのは嬉しいものです。

それとは逆に、特別調整の対象になって出所して福祉につながっても、どういうフォローアップしたかはわかりませんが、早々に再犯してこのクラスに戻って来た人も何人かいます。「また会えてうれしい」なんてことは決していえないわけですから複雑です。その複雑な空気のなか、再受講?となって罰の悪そうな顔をしているその人に「どうしたの?」と声をかけます。返答はそれぞれ異なりますが、共通しているのは、人とのかかわりを上手く作れなかったということです。

講話は万能ではない。まったくそんなことはないです。それでも自分の出所が近づいてくると、自分から「手紙かきます」と言ってくれる人がいる。実際は住所を知らないですから書いてこないけど、そういって刑務所を出て行ってくれる。役に立ってほしいって大雑把な言い方ですけど、受講生の心のどこかに残ってくれればというか、生きてきた中で、刑務所で何度も出入りした中で、ちょっと違う経験したなって印象に残ってくれればいいかな。

―印象に残っている受講生―
 30~40人くらいは思いだしますね。そのなかでも心残りは、途中で投げ出してしまったことになっているAさん。この人は50代、今まで50回以上私の話を聞いたことになる。一度だけ、ちょっとしたことで調査の対象になって講話を休んだことがあるのだけれども、その後無事に戻って来た時「先生、ご心配をおかけしてすみませんでした。」と深々と頭を下げてくれました。いつもは物静かだけれども、本当に真面目に聞いてくれました。今まで福祉のサービスを受けたことはなく、典型的な特別調整の対象者です。あと1年半で出所するから、私自身、何か彼のためにできることはないかとずっと考えていました。しかし、途中で講話をやめざるを得なかった。そんな彼が最終回の1回前に「先生さみしくなるね」って向こうから言ってきたんです。私からは何も言ってないのに講話が終わることを何で知ってるの?って心の中で思いました。

話は初めのころに戻りますけれども、講話の第1回から参加していたBさんも忘れられない一人です。この人は、初めの2~3か月ずっと無視して私の話を聴かなかったんです。講話なんて聞いたってしょうがないって思っていたようで、質問にもろくに答えてくれない。こういう人が出てくると俄然こちらにもやる気がでてきてしまうんです。この人が振り向くような話をすればみんなももっと興味を示してくれる。もしかしたらこのBさんがきっかけで、お堅い講話の形式ではなくて、一人ひとりの対話形式に変わっていったのかもしれません。心がけていたのはどれくらい対等な関係に近づけるかということです。そのためには一人一人の発言を決して否定しないこと、例えば思いがけない発言があったとしたらば、なぜそう思うのかをこちらも素直な気持ちで問いかけることです。その中でBさんは数か月後には自ら手を挙げて発言するまでに変化していきました。出所後も、Bさんとの付き合いはあり、頑なだったころのBさんのことを私が話すと、「先生、勘弁してくださいよ」と照れながら答える。そんなエピソードもあります。

Cさんが歌いだしたことも印象深い。Cさんは20代。私の講話を受講した人たちの中で最も若い人でした。刑期も短かったのですが、とにかく元気で、活発に自分の意見も述べる人でした。彼は発達障害なのですが、一時期、発達障害系の人が4人集まったことがありました。こうなると、ある話題で話が盛り上がると、我も我もと話をし出して、収拾がつかなくなるようなこともありました。これはまずいなと思っていると、次の回の講話が始まる前、Cさんが自ら手を挙げて、「先生、この前はうるさくしてごめんなさい。反省してます。」と言ってきたのです。講話も4年目に入っていた時期ですから、受講生の中に、この講話を共有している意識が生まれてきたような感じがします。そんなCさんが、出所を控えていて講話を聴くのが最後だという日でした。講話の終わりに一言を促すと、Cさんは「じゃあ、僕は歌います」って言いだしたんですよ。周囲は「何歌うの?」「AKB?」等と声をかけて・・・。CさんはAKBが好きでしたからね。でもCさんは「見上げてごらん夜空の星を」を選曲。その歌声は力強かった。受講生は呆気にとられていました。その日に聴講していた職員もなぜこんなことが起こるのかと呆然としていました。一番前に座っていてCさんと中の良かったDさんは、ボロボロ涙を流して泣き出したりして。

あの日、「よし!今日は最後にやるんだよ」って全員で盛り上げて行った雰囲気がありました。こちらはひと言もいわないのに、そこがすごいなって感じます。刑務所生活の中でそういうものを、小さい空間で、みんなで作ってるというものを感じる。一緒になってあの時間をつくるっていう風に変化してきたんです。

他にも印象に残る人は何人もいます。Bさん同様、全く私の話に食いつかずそのまま一言もしゃべらないままに懲罰にかかり他の工場に移されてしてしまった人もいます。刑務所の中で、問題なく一つの工場の刑務作業をやり通すのは結構大変なことなんです。刑務所の生活は単調です。そんな中で刑務所側もマンネリにならないようにいろいろな行事を組み入れています。受刑者たちはその行事などを節目として出所の日を待ちわびています。この講話もその小さな節目の一つになっていたのかな・・・と思います。

ただ、東京近郊で新たな生活を始めた人以外は、出所後、どこでどうしているかわからない。それが悔やまれます。

―そして、今思うこと―
彼らは教えてどうこうではなく、自らが変わっていっている。そういう力がもともとあるんです。お互いあの時間の中で共鳴しあえるという感覚、講師である自分と受講生である彼らとが一緒に同じ空気を吸っている。一人ひとりがあの講話の舞台の登場人物になっていってくれたと思います。本人たちも、今日は何だか、その雰囲気の中で登場人物として何かやろうという気持ちのようなものがすごく出て来た。発言もそうだし、一人ひとり個別ではなく、あのクラスを皆でつくってるという意識が強かった。最終回も、皆がつくってくれた。私が意気込んでやる必要はなくなっていて、「みんな集まったね、さあやりましょう」という感じになった。そういう点では私にとっては幸せな時間でした。幸せな感じは、それなりに94回の中で徐々に徐々に、受講生の入れ替わりはあっても何人かがつないでいってくれていたのは確かです。作業しないでこういう時間があるから楽しい時間にしたいだろうし、楽しみにしてくれてるっていうのは耳にしていたし、実際に皆の顔をみればそれがわかるしね。皆が本音を出してくれるから私も彼らを好きになってしまうんです。

障害者・犯罪者である前に同じ人間であるということを話してもきれいごとでぴんとこない。理屈ではそういうけど。それがあの場の空気をみれば、全く同じ人間同士が同じように楽しいと感じられる。共感するって、いちばん手っ取り早いのは一緒に何かをつくるっていうこと。例えば親子関係のなかで一緒に料理をつくるとか共感できる第一歩。それに近い物があの講話の時間にありました。あの時間をとりあえず一人ひとりが無駄にしなくてよかったという気持ちで十分だけど、それ以上に皆の共通する時間なのだという意識が強かったと感じます。だれかが乱そうとすると見出しちゃだめって言うのですよ、だれかが暴走しようとすると制するのですよ。それは私が教えたわけではなく、自分たちの体験の積み重ねなのです。

―皆さんへのメッセージ―
講話でも引用した一節があります。この一節の意味をこれを読んでくださっている皆さんそれぞれに感じ取ってほしいです。

「眠るなら目をつぶりなさい。考えるなら目を開けなさい。目をつぶって考える中身は大概くだらない。決断に向かって思考するとき、目は必ず見開かれて輝いている」

※むのたけじ(武野 武治、1915年1月2日 - 2016年8月21日享年101歳)は、日本のジャーナリスト

府中刑務所における「社会福祉講話」を終えて(1)

府中刑務所での福祉講話を、約1年半前から参観し報告して下さった有志ボランティアは、山梨県地域生活定着支援センター所属の福祉専門職Yさんです(その前は全定協事務局でした)。今回私たちは、講師を務めた赤平氏に最後の締めくくりとしてインタビューをしました。三回に分けてご紹介します。

インタビュー(1)
2012年4月、赤平氏による社会福祉講話が始まりました。当時の府中刑務所から知的障害のある受刑者の支援に力を入れたい、講話の形式で何か始めてみたいという提案があり、赤平氏は「刑務所のこと、障害のことをよく知っている私がやるしかない、今でしょ。」と思ったそうです。それ以降、月2回のペースで継続してきた社会福祉講話ですが、刑務所の都合により、今年2016年3月で終了しました。長く続いてきたものが終わってしまうことは非常に残念です。全94回のうちの22回を聴講し、その内容をお伝えしてきたなかで、講話の意味を改めて問いたいという思いから、赤平氏にこの4年間を振り返って、お話をうかがいました。

―4年間の率直な感想―
私にとっての大切な時間でした。それは、やりがいを感じられるから。あの雰囲気をみればわかるじゃないですか。定着の面接場面では、ああいうことはできないでしょ。やはり特別な世界でしたよね。

―講話で大事にしてきたこと―
できるかぎり対等な関係でいたいってことです。
あとから理屈をつけるとするならば、何かやってくれた時に一人ひとりに「ありがとう」っていうこと、間違ったことを言ったら「ごめんなさい」っていうことです。それって普通の人間ならあたりまえの会話でしょ。

刑務所は受刑する場所だから刑務官が受刑者に頭を下げることはないですし、対等であるわけはない。だから講話の、この空間はそうじゃないよっていうことにしたいと思っていました。刑務所を出たあとに何かの役にたてばいい、自分を振り返るとか、そういうための時間なんだから、そこに一方的な関係は必要ないですから。はじめは白紙の状態だから何もわからなかった、手探り、というのが本音。

―講話のテーマの決め方―
テーマはその日、もしくは前日の夜まで決まりません。なぜなら彼らも皆さんが思っている以上に世の中の動きに関心をもっていることがわかったから。ただ一貫したテーマとしては、人間を大切にしましょうね 関係を大切にしましょうね、ということなんだろうと思います。

だから、その日の受講生の顔色、人数とかによって急に話の内容を変えることもあります。毎回の導入部分は、近々に起きた行事やニュースから入るわけですけど、一人ひとりの調子の善し悪しもあるし、機嫌のいい人、波がある人もいるから、その時の状況で変わるので、かっちりとしたテーマは決めてない。その時の反応によって進め方は変わります。しかし、入所出所の関係で受講生の出入りがあるので、1回1回の話は完結しなければならないということは気を付けていました。

つまり、いい加減と思われるかもしれませんが、はっきりとした目的はなかったということです。彼らをどうこうしたい、評価をもらいたい、といったものではなくて、あくまでも今まで生きてきた人間関係の中で、ちょっとアクセントになるという形になればいい。

「今を生きてる」っていう感覚というか、私にとっても「生きてる」っていう感覚、人間と人間が向き合ってるという瞬間を感じることができるのは、あの時間だったことは確かですよ。

それと、2週間に1回のペースって、またちょっと聞きたくなるなっていう時間だろうし、こっちとしても次のことが頭にあるちょうどいい時間だったと思います。1か月に1回だと内容を忘れてしまうでしょうから。私も1回終わったら、次のことを考えなければならない。毎日のようにずっといろんなことを考えていましたね。一人ひとりのことを思い浮かべながら、周囲で起こってることとか、あれこれとたくさん考えていて、テレビやネットのニュースを以前よりも見るようになりましたね。結果、こうなってるだけのことでしたから、やはり、「思いつき」です。

毎回のスライドも適当といえば適当。前日の日曜の夜中に完成させていました。生の話題をするためには前日でないとね。みんながどんな風に感じるのかなと考えながら、いろんなことを想像しながら、そのなかでこれ(スライド)を持っていきましょうって決めていた。適当というか、気分というか。一つ言えることは、準備を楽しんでいたということ。この準備をすることも講話なんです。

―福祉の題材を使うことが次第に減った理由―
大切なのは、福祉っていう言葉よりも人、信頼出来る人、話しが出来る人と出会ってほしい。そういう人と出会いがなかったら福祉にも結び付いていかないわけですよ。だから地域生活定着支援センターの職員がそういう存在になってくれたら・・・いいなって思ってます。支援者は福祉に結び付けるためを前提で動くけど、それは結果の話しであって、その判断をするのは本人ではなく支援者側の考えなんですよ。本人にとっては、この人なら自分のことを語れるなっていう関係になること。どこかの施設に入る段取り、部屋の使い方とかサービスをどう使うかではなく、だれを信用していいのか、だれに自分の生活を委ねるのか、あくまでも人との関係をどうつくるか、これが一番のテーマになってくる。だから福祉の制度云々かんぬんはあえて後回し。これは君たちが一人で頑張ることではなく、一緒に作っていく。その関係作りなんだということ。一番大切なのはそれです。

インタビュー(2)に続く・・・

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(22)

2016年3月28日府中刑務所 社会福祉講話

今回で最後の講話です。4年もの間、継続してきた最終回ということもあって、特別に聴講させていただきました。そのため今回は、これまでとは違い、講師の語りを中心としたスタイルで皆様にご報告をさせていただくことをご了承ください。

今回は10名の受講生が参加しました。講師はいつものように一人ひとりに声をかけて出席をとります。そして、この日。受講生一人一人に「今考えていること」を無記名で書いてもらいました。用紙を配るなり、すぐさま受講生たちは書くことに集中します。真剣に、自分の思いをしたためている様子です。またその様子を見て講師は少々驚いたようです。一旦手を止めてもらい、講話に入ります。

「丸々4年間やってきましたけどいよいよです。100回やりたかったんですけど、力不足というか・・・世の中上手くいかないこともありますね。この講話は4年前から始まったのですが、4年前って何があったか思い出せる?」

・・・講師は受講生たちに語りかけ、2012年に遡り、2013、2014・・・と一年ずつ、どんな出来事があったか、講話で何を話してきたか、と振り返っていきます。

2012年辰

「あなたの人生でつらかったことは何ですか」
「今まで色んな質問をしてきました。趣味、幸せ、とか。そして、こんなことも聞きました。“あなたの人生でつらかったことは何ですか?”」
・・・受講生たちは想い想いに考えている様子です。
「みんなが過去を振り返りながら話してくれました。私にとっては今日が一番つらい。」

間違い探し
「皆さんの一番好評だったのが“間違い探し”でしたね」
・・・スライドが映し出されると、早速、間違い探しが始まります。「雪ダルマ!」「字が違う!」「ねこ!」と次々に間違いを見つけて盛り上がります。

2013年 孟子
「恒産無くして恒心なし。孟子の言葉。孟子は中国の紀元前の人です。“恒産”っていうのはね、仕事、お金。それらがなければ正しいおこないをすることは難しいですよ、って言っていたんです。生活基盤を持つことの大切さを昔の人がずっと言っていたんです。」

2014年 8%
「この時、消費税が上がりましたね。8%。次は10%の予定。あがるかどうかまだ様子をみてる段階。はっきりわからないようです。ところでこの消費税は何に使うと思う?」
・・・早々に「困ってる人を助ける」と、受講生の中から返答があります。
「そう。福祉目的税と言われていて、困っている人を助けるために使われるんです。」

高倉健&
「この年、大物俳優が亡くなりました。高倉健と・・・」
・・・受講生たちは誰だったかと考え、ようやく思い出して返答が聞こえてきます。「菅原文太!」「トラック野郎でしょ」「仁義なき戦いとかね」

「この年の流行語大賞は何だったか覚えてる?」
・・・受講生の一人が間髪入れずに「倍返しでしょ、おもてなし、じぇじぇ、それと・・・」と答えている途中、「それは一昨年の流行語ですね」と講師が突っ込みを入れると笑いが出ます。「正解はダメよ!ダメダメ!」

2015年 生活困窮者自立支援法
「こういう考え方が出てきました。生活に困ってる人にどんな支援をするか、皆だったらどう助ける?」
・・・受講生たちは自分自身が困ったことについて考え始めます。「生活の仕方」「自分で作って食べること」「体が弱くて仕事できなくて生活に困った」「お金がなくて困って、盗んじゃった」等々の発言が出ます。
「ここにいるみんなが困ってるもんね」
・・・講師は温かい言葉をかけます。

2016年さる
「今年はさる年か・・・、嫌だなあと思っていたら、自分が去る年なのだと思って、何とも皮肉なもんだと思いました。」
「これまでを振り返ってみましたが、あっという間でしたね。」「いろんな事件もありました。その中で一番腹が立った事件がある。中学生が自殺してしまった事件です。2年前に万引きをしたことを先生に言われて誤解が解けないまま自殺することになってしまった。この子は、実際は万引きはしてなかったんだけど、仮にしてしまったとしても、2年前にやったことをずっと言われる教育に腹が立ったんです。」
・・・受講生から意見が出ます。「それは感じますよ」「そう言う人はいますよ」「ほっとけばいいんだよ」「ぎゃふんと言わせればいい!」
「そうですね。社会がそういう考え方を持っているということに腹が立ちます。」

1みさおとねこ 2みさおとねこ 

3みさおとねこ
「私が気に入っている写真なんですよ。みさおおばあちゃん。4匹生まれて、1匹残ったのが福丸。福が来てまるくおさまるようにって。実はこの福丸は耳が聞こえないんです。だけどこうやって仲良くやれている。写真見ると、とっても仲良くやってますね。聞こえない同士寄り添って生きていくって大事なことだなあと思います。」
・・・「いいね~」と受講生たちもスライドに見入っています。
「皆さんも、このおばあちゃんのように寄り添って行ってもらえればなあと思ってます。」

・・・そして、講師は一人一人に近づいて顔をみながら話しかけていきます。

「Aさん。元気で楽しい雰囲気を作ってくれました。何かあると、例えば、“読んで”といえば読んでくれて、話し合いとなると司会をやってくれる。真面目に考えることを続けていってください。」
「Bさん。健康だけは気をつけて。」
「Cさん。心配なんだよね。今度は失敗しないように。人とのつながりを大切に。意地はらないで。」
「Dさん。徐々にあなたの発言が増えていくことが本当にうれしかった。今までありがとうございました。」
「Eさん。一番長い付き合いでしたね。あなたの仕事ぶりを見るのが私は大好きでした。何かの形で力になりたいと思っています」
「Fさん。第1回が最後になってしまってごめんなさいね。」
「Gさん。もう戻らないようにね。何だか目が穏やかになっているのが不思議なんですけどね。」
「Hさん。Hさんも長い付き合いで、最年長のあなたの貴重な経験を語ってくれましたね。運動会も応援頑張ってくれて。困っていることがあれば言ってください。」
「Iさん。真面目だから、違うと思ったら譲らないところがある。長所でもあり、短所でもあるよね。よくわかっているよね」(Iさん頷く)
「Jさん。いつも最前列に座っている、あなたの笑顔に私は何度も救われました。ありがとう。身体に気をつけて。」

「こうして皆さんと一緒にいることは縁です。悪いことをして入ってきたけど、少なくても私の話を聴いてくれて、気持ちを言ってくれて、回を重ねるたびに皆さんのことが大好きで仕方なかったんですけど、残念です。長い間ありがとうございました。」

終わりの時間が近づいてきました・・・その時です。突然Jさんが手を挙げます。そして「先生!言ってもいいですか?」と立ち上がり、一生懸命書いていた「今考えていること」を読み始めます。

―赤平先生と出会ってうれしかったです。いろいろとしつもんしてこたえてくれたどうもありがとうございました。アクロバットのときもうれしかったです。おわかれするのでさみしいです。先生に手紙をかきたいです。先生のことは忘れません。―

<講話を終えて>
「今考えていること」にどんなことが書かれていたのか。受講生一人ひとりが、「赤平先生への手紙」をしたためていて、そこには感謝の言葉が溢れていました。ここですべてをご紹介できないことが残念でなりません。

講師が最後の挨拶をした時にJさんが手を挙げて立ち上がり、自分の書いた手紙を力強い声で読み上げるその姿は見事でした。本当に素晴らしかった。これまで積み重ねて来た講話の重みが、このサプライズの瞬間を生み出しているのだろうと感じます。私もこの瞬間に立ち会うことが出来たことに、とても感謝しています。私は最後部の席で聴講しているため、受講生の顔を正面から見ることが難しい。講話が終わった後で講師に聞くと、目を赤くして、涙目の受講生もいたようです。一番長い付き合いのEさん。Eさんは50回以上この講話を聴いてきました。教室を退場するとき、いつもは物静かなEさんが強く握手をしてくれた、と講師は語っていました。

2012年からこれまでを振り返っていく今回の60分間は、講師と受講生たちにとって、1分1秒の時間の経過を意識させられた60分だったように感じます。講師は、その1分1秒をとても大事にしながら、講師と受講生の関係性と、同時に、同じ人と人との対等な関係性もそこに在るという空間を作り上げます。

私は後ろの席で、涙を堪えながら受講生に語りかけている講師の顔を見ていました。講師の顔を見ながら、以前講師が、日常においていつも講話のことを考えているのだ、と話されていたことを思いだしていました。そして講話の前日に、ほとんど睡眠をとらずに作成していたそうです。受講生ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、スライドの構成を組み立てていたのだと。講師は、この社会福祉講話に非常に強い思い入れをお持ちです。講師の世界観、そして講師だからこそ成し得る技なのだと片づけられずにいます。

この講話から、私たち支援者がエッセンスを見出していく作業は重要だと考えています。そこで今回、講師にインタビューをさせていただくことになりました。次回はインタビュー結果を踏まえてファイナルを締めくくりたいと思います。このブログを読んでくださっている皆さんの感想も是非お聞かせいただけると嬉しいです。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(21)

2016年3月7日府中刑務所 社会福祉講話
今回は9名が受講されています。30歳代2名、50歳代3名、60歳代4名、うち4名の受講生が療育手帳をお持ちです。

 講師はいつものように、一人ひとりに声をかけて挨拶をします。
 Dさん「元気です!!」
 Cさん「足が・・・かなり駄目です」
 Hさん「風邪なもんで・・・」
 Gさん「変わりないです」
 Iさん「先生、寂しくなりますね」
-そうですね。年度末ですから-
・・・今回からAさんが新しくメンバーに加わりました。
 Aさん「・・・」
-緊張しないで、リラックスして自分の気持ちを言ってもらって構わないですから-
・・・講師はAさんに優しく声をかけます。
-初めて参加してくださったAさんに、ご挨拶をしなければいけないですね。私の名前は・・・-
 Cさん「赤平先生」
-ではCさんに、ホワイトボードに書いてもらおうかな-
赤平先生
・・・Cさんはホワイトボードに講師の名前を漢字で書きます。
Gさん「字が小さいよ」
・・・受講生たちはCさんが丁寧に書いている様子を見守ります。
-書いてくれてありがとう。Aさん読んでもらえますか?-
 Aさん「あかひらまもるせんせい」
-そうです。赤平といいます。よろしくお願いします。ではCさん、せっかく書いてくれたけど消しますね-

2016年3月7日
-7日といえば、消防の日らしいですね。他に何の日か、わかる人いますか?-
 「わかんない」 
-語呂合わせで考えて・・・-
 「あ、ひな祭り!」
 「3日だから、もう過ぎてるじゃん」
 ・・・受講生たちが笑います。
-皆さんは好きじゃないかと思いますよ。3(サン)と7(ナナ)で語呂合わせでいくと・・・-
 「サウナ!」
-そう、サウナの日だそうです-
 「あ~なるほどね」
 「温泉大好きです」

振り返り
-では、今日はまず、前回の振り返りをしてみたいと思います。何を話したか覚えていますか?-
「振り返りです」
・・・Cさんが返答します。
-“振り返り”について話したのではなくて、前回のこの時間でどんな話をしたのかを振り返るという意味です-
「何だっけな~」
「10%消費税?」
「そうそう」
「蟻のはなし」
「あ、そうだ」

蟻
-どんな話だったか覚えてますか?-
「働く蟻がいて・・・」
・・・Hさんが思い出しながら言葉にしています。
-そう。“2・6・2”って言って、懸命に働く人、普通の人、怠けている人、色々いる。背の高い人、低い人、その人その人なのだという話をしました。Dさん、仕事はどうですか?-。
「楽しいです!」
・・・Dさんは元気に返答します。
-仕事は楽しいと言える人はなかなかいないと思うけど、やりがいがあるんだね-

311
-“振り返り”というと、もうすぐ3月11日ですね-
「311・・・」
「震災!」
-そうですね。震災から何年経つ?-
「5年」
「早いね」
-この時、皆さんはどこに居ましたか?-
「刑務所」
「シャバ」
・・・いろいろな答えが出ます。
-私はあの日、川崎にいました-

福島
-震災から5年が経つけど、未だに復興がきちんとできていない。
宮城県も被害が大きかったけど、ここはどこかわかる?-
「どこだ?」
「福島第一原発」
-ずっと影響が残っているのがここ。宮城は仮設住宅を立て直して生活を始めている人たちがいる。でもここ、福島の人は皆町から出ていった。放射能で汚染されて人が住めないですから。この原発の近くに浪江町という町があって、町民2万人以上が家に戻れない。今、浪江町の人口は0人です。そして今はどんな状態になっているか?-
イノシシ
「何だ?」
-イノシシですよ-
 「うわぁ」
-町に人間がいないから、町の中、家の中、イノシシなどの野生動物が好き放題。食べ物も食い尽くされてしまった。この町に住んでいた人たちはそれぞれ新しい場所で暮らしている。本当の意味で復興することは大変なこと。知らない場所に行って、生活を始めるというのはきついよね-
・・・受講生は黙って思い思いに聞いています。

気になるニュース
-さて皆さん、最近の気になるニュースは何かありましたか?-
「オリンピックの聖火台」
-そうでしたね。設計の段階で聖火台を置くことを想定していなかったとか・・・聖火台を置く場所がないことに今になって気づいたというニュースがありましたね-
「なでしこジャパンが駄目だった!」
「卓球!」
-卓球は頑張って勝ち上がっていましたね-

最高裁判決
-皆さんは地裁でしたでしょうか。最高裁ってどんなところ?-
「僕わかんない、行ったことない」
「知ってますよ」
「最高のところ」
-地方裁判所があって、その次が高等裁判所。そしてその次が最高裁判所。ここで決まったことは覆らない。-

JR東海
-皆さん知っていますか?JR東海の事故。-
「あ~、ボタンを押しちゃったやつ?」

JR東海の事故裁判所
-ではCさん読んでもらえるかな-
・・・Cさんがゆっくりと音読します。
-JR側が自分たちが被害者だと主張。男性がはねられてしまったことで、電車が止まり、お客様に迷惑をかけたから損害賠償を求めたという事件-
Gさん「あ~なるほどね」
Cさん「見てたけど、だから、その、要介護1の認定で・・・」
-男性は死んでいるんですよ、亡くなった人に責任負わせるの?-
Hさん「だって、迷惑かけたんだから」
Hさん「事故で遅れたから、720万は当然だと思いますね」
Cさん「何で?意味わかんない」
Hさん「死んでしまったけど。いくら認知症でも、責任はあるから払うべき。720万は少ないよ。」
-1億って言われたら?-
Hさん「払いますよ」
Hさん「社会に迷惑がかかってるからですね。判決は納得いかない」
-介護をするって大変なことですよ。介護してもらう人、それができないから介護が必要なんだから。看護も24時間つくことはできないし、 難しいですね-

時と金 time is money
-だれか読める?-
 「読めません!」
-お金は・・・money(マネ-)。time(タイム)は時間。時は金なり。これってどういう意味?-
「・・・」・・・受講生は考えています。
-Hさんは先ほどまで、時とお金のことを一生懸命話してくれたのではありませんか?-
「あ、そっか・・・」・・・Hさんも考えています。

時
-1分は60秒、1時間は3,600秒、1日だと3,600秒×24時間で86,400秒、1か月、1年、・・・そして、80年生きるとしたら25億2,288万秒-
「あはは」・・・受講生たちは笑いながら驚きます。
-多いと思う?-
「多い」
「少ない」
「ピンとこない」

ビルゲイツ
-この人は誰だか知ってますか?ビルゲイツという人-
「わかった!」
「わかんないです」

ビルゲイツという人
「やっぱりそうだ!」
「コンピューターを作る会社!」

資産
-よく知っていますね。この人は今世界で一番多くの資産を持っている人です。このビルゲイツの資産は?-
「何だ?7、8、9、10・・・読めないんですけど」
-9兆5千億円-
「9兆!」
「ほーっ」
-どんなお金でしょうか。Bさんは毎日1万円使うことある?-
「ありますね」
「ありえーる、ありえーない」
-1日1万円使うと9億5000万日。何年でしょうか。計算すると260万年。-

アウストラロピテクス
-260万年って、この時代ですね-
「類人猿」
「すごいね」
-毎日、1億円ずつ使えたとしても・・・-

江戸
-260年前とすると、日本では?-
「日本はまだないんじゃない?」
-江戸時代までさかのぼらないと使いきれないお金-
「自分が電車を止めたことあるんですよ。その時、5000万、1億とられますよって言われたんです」
「騙されたんでしょ」
-皆さんにとって身近なお金ってなんですか?-
「ジャンプを買ったとしても200円だからな・・・、1000円あればまあそんなに要らないですよ」
-日本でお金をたくさんもらってる人は?-
「明石家さんまとか、タモリとか」
「あ、宅急便の人」
-今は、ユニクロの社長が一番お金を稼いでいるそうですよ-
「あ~ユニクロ」
「すごいな~」

スティーブジョブス
「あ、映画の人だ」
-知っていますか?-

アップル
-このマークは知ってる?-
「何だっけ?」
「あ~出てこない」

スマホ
「あ、スマートフォン」
-そう、iPhone。これはマッキントッシュという会社のものなんです。スティーブジョブスがこのスマホを初めて開発した人。発想が豊かであるから、こういうものがつくれる。2011年に亡くなっている人だけど何兆ものお金を稼いだ人。このスティーブジョブスの言葉を紹介します-

スティーブジョブスの言葉1
-Fさんは、前回の講話の時間で、私は死なないって言っていましたけど・・・
 Fさん「はい。死にません」
-いずれは、人間は死ぬと皆思っているんですけど。ただ、誰も死なない人と会ったことがない。もしかしたらFさんは死なない人になるかもしれない-
 ・・・Fさんは頷きます。
-大事なことを一生懸命できる機会が3つだとして・・・。まず、だいたい子どものころに一度はあるよね。皆さんが一生懸命だったことは何でしょう?-
「野球の選手」
-いいですねぇ-
「運転手ですね」
「体操ですね」
-何か熱中するものを持つよね。仕事もそうだけど、結婚するときも一生懸命になる-
「先生は?」
-今自分のことで考えると、あと10年生きるかどうか。一生懸命やれること、あるかどうか、かな。Eさんは?-
「わからんね」

スティーブジョブスの言葉2
-さあどうでしょう。どれだけお金を持っていても、“9億持ってます”といっても、墓場に行ったら使えないですからね。天国と地獄っていいますが、どっちに行きたいでしょうか?-
「刑務所に入れば地獄でしょ。悪人だから」
「ハリセンボン這っていくんでしょ」
-それって人間がつくったものでしょ。天国はいいところだから死にましょうっていわれても、・・・-
「いやですね」
-いい仕事したなと思って寝る方が安心ですね。時間は同じように流れる。時間は取り戻せない。9兆円を持ってる人でも取り戻すことはできないものです。-

時渡辺和子
-時間の使い方は人それぞれあると思います。でも時間は同じに流れるし、だれも止められない。ここでは自分で選んで使うことは難しいけど、(刑務所を)出た時に考えて時間を使ってください。無駄使いは命の無駄使いになるかもしれない。お金で買えるものと買えないものがある。やまない雨はない、明けない朝はないと言いますね-

謝罪
「先生いつで最後ですか?」
「忙しいんですか?」
-28日ですね。この講話の時間は私の生きがいでした。皆さんのことが大好きで、皆の顔を見ると、何話そうかなって思って嬉しくて。でも次回が最後になります-
「また復活するよ」
-皆さんの3600秒使わせてもらってありがとう。聞いてくれて。少しでも何かのためになればいいと思ってます-
「わかりました!」
「楽しかったです」

<講話を終えて>
社会福祉講話は次回で最後となります。受講生から開口一番「さみしくなりますね」という発言がありました。講師の雰囲気を察したのでしょうか・・・。

全国の各刑務所において、社会復帰に向けて、社会福祉に関する講話等、様々な形で実践されていると思います。府中刑務所で継続されてきたこの講話は、知的に障害のある受講生たちが対象です。社会福祉の専門用語や法律の条文を書き並べた資料を配布して、社会福祉制度についての説明をするといったことはありません。短い言葉や画像を用いながら、そして伝えたいことはいつもシンプルです。講師は、受講生たちとの双方のやりとりのなかで、一人一人の反応、変化をみながら、力動のある時間をつくりあげています。

今回のテーマは“時は金なり”。時間は貴重であるから無駄に過ごしてはならないといった意味合いで使われ、時間の尊さを表している格言です。講師にとって、そして受講生にとって、講話1回1回が尊い時間なのだろうと感じます。Cさんが、ホワイトボードに“赤平守先生”と、講師のフルネームを一画一画手寧に書いている様子をみて、講師はどんな気持ちだったのでしょうか。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(20)

2016年1月25日府中刑務所 社会福祉講話
今回は新年を迎え、最初の講話です。8名が受講されています。

-今年もよろしくお願いします-
-寒いね、今日は。血圧の高い人は?-
・・・2~3名が手を挙げます。
-血圧は、朝起きる時が一番怖いから、気を付けてください-
Dさん「先生、新しい仕事をしてますよ」
-2016年を迎えるにあたって、新しい仕事はどうですか?-
 Dさん「結構大変です」

スライド2
-10年ぶりに日本人力士が優勝しましたね-
-10年だから・・・60場所ぶりです-
 Dさん「またやってくれるんじゃないですか、ロボコップ!」
 Cさん「そんなに甘くないよ」
-あっという間に次の場所がやってきます-

スライド3
-どこだかわかりますか?-
 Dさん「住宅地でしょ?ありえないでしょ」
 Fさん「府中じゃないですよね」
 Cさん「東京?」
 Dさん「北海道!」
-北海道ならば普通ですね・・・-
 Dさん「わかんないなあ」
-雪がめったに降らないところ-
・・・
-九州の長崎です。長崎のペンギン水族館。-
 Dさん「あ-、長崎」
 Fさん「ペンギンが喜んでるね、キンキンって」
 Dさん「すごいなあ」
-暖冬って言っていたけど、今日は5~6℃、朝はマイナス4℃-

スライド5
-先週、1月18日は東京に雪が降りましたね。-
-京王線は台風とかでもめったに止まらないのだけど、この日は雪の影響で新宿駅で電車が止まっていて、いつ動くかわからないという状況だったんです。人ばっかり乗ってくるけど電車は動かない。本当は1月18日が今年最初の講話だったのに、結局、ここまで来れませんでした。ごめんなさい。

shinjyuku
Dさん「うわあ」
 Cさん「そりゃそうでしょ。雪降って立ち往生するもの」
-駅の構内にも入れない。新宿は京王線のほかに小田急線も走っているけど乗り換えるのに30分かかる。人がこれだけたくさんいるから進まないんです。沖縄でも100年ぶりに雪が降ったそうです-

skibusaccident
Dさん「軽井沢!スキーツアー!可哀そうに」
-そうですね。15人が亡くなってしまいました。1年に1回はこういったバスの事故があるような気がします。今回の事故の原因はこれから究明していかないといけないけど-
-亡くなった15人は若い人ばかり。損害賠償が大変ですよね。例えば大学生が亡くなった場合、これから社会に出ることを考えて賠償額が決まってくる。小さいバス会社が払えるのか、払えないからそれでいいのか。こういうことが起きるのは悲しいことです-

2016年8月5日
-この日は何でしょうか-
 Dさん「オリンピック!」
-どこで開催される?-
 Fさん「リオデジャネイロ」

worldmap
-どこかわかりますか?ブラジルってどこでしょう?-
 Dさん「わかった!もうわかったよ」
 Fさん「わかんない」
-ではDさん、どこだか教えてください-
・・・Dさんは離席して、スライドの地図へ近寄ります。
 Dさん「この地図英語で書いてあるからわかんないよ」
-アメリカの下だからブラジルはここです。日本からすると、真裏にある。だから夏と冬が逆になりますね-

リオデジャネイロ オリンピック
brazil

-そのほかに今年予定されていることがあります。
schedule

まず、3月 北海道新幹線開通(函館)
九州から北海道まで貫通する予定。

5月 先進国首脳会議(G8) 伊勢 志摩はどこにあるかわかりますか?-
 Cさん「わかりません」
三重県ですね。
-先進国って?-
 Bさん「わかりませんね」
-ここでいう先進国は8つあります。-
 Fさん「日本とアメリカと、えーっとどこだっけ?」
 Cさん「中国!」
-中国は入ってません。
 ・・・受講生から返答がなかなか出ません。
-ロシア、カナダ、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア。そう考えるとアジアで先進国に入っているのは日本だけですね。この先進国が毎年集まって会議をするんです。この8カ国が持ち回りで会議を開催する。前に日本のどこで会議が開催されたか覚えてますか?-
・・・受講生は考えています。
-北海道です。洞爺湖サミットが開かれました。そして今年、また日本で開催される。場所は伊勢志摩。何故東京じゃないのでしょうか?
Fさん「なぜ?・・・」
-テロですね-
Cさん「あ-あ-」
-テロはどこでありました?-
Cさん「フランス!」
-先進国の首脳たちが来るための警備をするには、東京だと大変ですからね-

-7月 参議院選挙(予定)。選挙投票したことある?-
・・・受講生の数名が頷きます。

-8月 山の日(8月11日)。休みが1日増える。どうして8月11日になったか?最初は8月12日を予定していたんです。しかし8月12日は、以前、御巣鷹山というところで飛行機が落ちた日なんです。
 Fさん「日航機が落ちた事故ですね」
-だから12日を山の日とするのは適切ではないということで一日ずらしたそうです-

-これは?9月 パラリンピック-
Dさん「障害者たちの運動会!」
-運動会ね・・・。オリンピックです-

-11月 アメリカ大統領選挙。候補になっている人知ってる?-
・・・受講生は考えます。
-アメリカには大きな政党がふたつあることは知ってるかな?
Cさん「はい、民主党じゃなくて・・・え-っと・・・」
-民主党と共和党ですね。半分半分くらい。アメリカではどちらかが長年政権を続けることはありませんでした。-

成人
-成人の日はいつ?-
Iさん「1月15日」
-今はハッピーマンデーといって、1月の第2週の月曜日を成人の日にしています-

暴走族
-これは成人式ですよ。毎年、成人式というと暴れてしまう人がいるんです-
Cさん「なつかしいなあ」
Fさん「写ってるんじゃないか?」
・・・受講生たちは笑います。

成人に関する主な法律
 Cさん「難しくて読めません。」
-Hさん、読んでみてください。-
・・・Hさんが音読します。

election
-公職選挙法では、今年から18歳で投票権があることになりました。少年法では大人は20歳。18歳か20歳か、で揺れてくる。結婚は何歳でできる?
Fさん「18歳」
-女性は16歳、男性は18歳。でも親の許可が必要になりますね。大人っていうのが曖昧になる。そこで今日は皆さんと一緒に考えてみたいと思います-

大人の条件
・・・受講生から「難しいね」と声があがります。
-どんな人が大人でしょう?皆さんの意見を聴きたいのですけど、一人一人発言してもらいましょうか?それともグループに分けて意見を出し合いますか?-

Cさん「意見出し合う方がいい」
・・・受講生たちは頷きます。
-では2つのグループに分かれて10分くらい話し合ってまとめてください。-
・・・4人ずつ2つのグループに分かれて、記録係を決めてから意見を出し合います。

◆受講生の意見
「国家公務員、国会議員でしょ。」
「簡単じゃん、化粧してきれいになる人は大人に見えるでしょ」
「結婚してる人」
「責任感のある人が大人」
「楽に考えないとダメだって」
「戸籍のある人」
「会社員とかかな」
「酒を飲む人。自分は16歳から飲んでるもん」
「パチンコ出来る人」
「AKBとかは、はっきりいって大人じゃありませんからね」
「カップルとか。カップルだって20歳になれば結婚するし」
「法律を守る」
「法律はどうせ守らんでしょ。ここに居るんだから法律守ってないでしょ」
「親の言うことを聞く」
「成人してる人」
「選挙権のある人」
「刑務所に入るたびに大人じゃなくなるんだ」
「社会人で仕事する人」
「家庭を持って子どもがいて仕事する人」
「仕事が終わって楽しい酒を飲む人」
「社会のルールを守ることが大人の責任」
「社会のルールを守らないと社会で生きていけない」

-刑務所に入っている皆さんは大人とは呼べないということ?-
・・・講師が問いかけます。
Fさん「今は反省してるけど信頼を持つためには真面目に働きます」

-ある調査(内閣府2013年民法の成年年齢に関する世論調査)によると、「大人」になるための条件としてもっとも多くの人が支持をした項目は「自分がしたことについて自分で責任を取れること」、次いで「自分自身で判断する能力を身に付けること」「精神的に成熟をすること」という結果が出ていました。-
・・・受講生たちは想い想いに考えている様子で黙って聞いています。

-どんな人が大人なのでしょう?-
・・・講師は発言が少ないAさんに問いかけます。

Aさん「いいきれない。大人の時もあるし、子どもの時もある」
-確かにそうだと思います。法律を厳しくして子どもたちはどうなるのでしょう?自由にできなくなるのでは?では、自由とは?-
・・・受講生は真剣に聴いています。

-何をしてもいいってこと?ではないですね。何をしてはいけないかを判断するってこと。大人になるってことは法律では20歳とか18歳とか言われていますが、社会の中の一人だという意識がないと大人とは言えない。他の人と接することができるか、自分の意見を押し通すのではなく、相手の意見を聴けること。どうやって相手を認められるか。Aさんが言ってくれた「いいきれない」という意見を認められるかどうか。自分は、よくわかってないのだということを知っていること、そして認めること。大人になることが終わりではなく、社会人として始まるのが大人。未熟で完成してない。生きていく中で、色々なトラブルが起こったりする。皆さんの意見一つひとつは正解、でも足りないということをわかってるということが大事ですね。だから皆さん、立ち止まって考えてください-

<講話を終えて>
このブログを読んでくださった皆さんは、何を感じられたのでしょうか。筆者は、最後部の席で講話をメモをとりながら聴かせていただいています。60分という特別な時間です。受講生の様子、講師の語り方、両者のやりとりの雰囲気、そして時に大きく動く空気感、等々を文章にして皆さんにお伝えできているのか、上手く言語化できない自分に腹立たしさを感じながら、こうして今回も感想を加筆させていただいています。

聴講させていただいてきた中で、いつも思うこと、そのひとつは、受講生たちは“ニュース”として報道される出来事について、とても良く知っている、ということです。そしてそのことを講師も良くわかっていて、受講生一人ひとりの個性を引き出していく時間が前半です。

そして自然な流れのなかで後半へと進みます。今回は”大人の条件“。受講生たちからどんな意見が出るのか予測していたのだろうか、と思うほど、60分がまとまります。講師にたずねると、いわゆる”講話の落としどころ“については事前に考えることはしていないのだと言います。

どんな人が大人なのか「いいきれない」と答えたAさんは、いつも積極的な発言はなく、黙って聞いている方ですが、Aさんなりによく考えていることがわかります。講師は意図的にAさんに問いかけたそうです。講師と受講生のやりとりから、お互いの主体が発揮されている60分なのだと感じます。そして、今日もまた支援者に必要な価値について考えさせられています。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(19)

2015年12月7日府中刑務所 社会福祉講話
今回は2015年度第17回目通算88回目の講話です。9名が受講されています。30代2名、40代2名、50代が2名、60代が3名、そのうち、4名の方が療育手帳をお持ちです。

いつものように、一人ひとりを呼びかけて、出席をとるところから始まります。講師は、この時の一人ひとりの返事の大きさやそのときのちょっとした会話が進行に大きく影響すると言っています。

-今年は暖冬なのか、銀杏がやっと色づいてきました。陽気が悪いのでしょうか。-
Iさん「機嫌が悪い!?」・・・Hさんに話しかけます。
Hさん「あぁ、そっか。機嫌じゃなくて陽気だよ」・・・2人で笑っています。

-最近のニュースは?-
 Dさん「子どもが覚醒剤うたれて死んじゃった」・・・数名が頷いています。
-そう、昨日のニュースでしたね。その前も若い夫婦の事件、17歳の母親が生まれて間もない赤ちゃんをゴミ箱に放置して命を落とした事件がありました。理由は、ゲームがしたかったから、と言っているらしい。-

師走
 Gさん「師走(しわす)」・・・スライドが変わるなり文字を読みます。
-12月は師走です。-
 Cさん「しそう・・・?」
 Dさん「“しわす”か」
-いつ頃のこと?-
 Gさん「今頃でしょ」
-そう。12月ですね。あっという間に過ぎるよね。この“師”は他にどんな言葉ありますか?-
 Cさん「師匠の師」
-そうですね。他には?-
・・・皆、考えている様子。
-教師の師。先生も走るくらいせわしなく過ぎていくから師走と言われている。さて、スポーツではどんなことがあった?-
 Bさん「日馬富士優勝」
 Dさん「五郎丸」
 Cさん「北の湖が死んじゃった」
-北の湖がめちゃくちゃ強かった時代を知ってる?-
 Iさん「知ってますよ」・・・数名が同様に応えます。

羽生弓弦
-羽生弓弦選手。知ってますか?-
Dさん「フィギアスケート!」
-男子フィギアは最高得点がこれまで200点台だったのだけど、世界で初めて300点越えをしたんです。選手の活躍でフィギアスケートをする人が増えたと言われてる。ラグビーも関心を持つ人が増えたようです。他にやる人が増えたスポーツは?-
 Dさん「テニス!」
-そう。Dさん今日は冴えてるね。-

流行語大賞
-(前回、みんなで予想してみたけど)決まりましたね。大賞は何か知ってますか?-
 Dさん「知らない。本能寺の変?」
 Bさん「あったかいんだから~」
-ひとつは“トリプルスリー”。知ってる?-
 Bさん「回転するやつ」
 Cさん「知らない」・・・知っているひとは居ない様子。
 Dさん「回転して着地したときのアクセル!」
 Cさん「わかった!」
-Cさん、わかった?言ってみて-
 Cさん「(なかなか言葉が出てきません。唸りながら10秒位考えて)30本塁打、30盗塁、・・・あと何だっけな~、あ、打率3割!」
-そう。でも大賞に選ばれた言葉をみんなが知らないってことはどうなんでしょうかね。そしてもうひとつは“爆買い”-
 Bさん「爆買い!」・・・笑っています。
 Dさん「まとめ買いってことじゃない?」
-そう。主にどういう人が?-
 Iさん「中国」・・・何人かの受講生が答えます。
-中国人はお金持ちで、日本に来て、薬とか電化製品とかまとめて沢山買って、その場でスーツケースも買って、そのスーツケースに入れて帰る。-
 Bさん「お惣菜とかおかずとか」
 Dさん「違うよそれ」
 Bさん「お母さんがよくお惣菜とかおかずとかまとめ買いしてた」
-そうか。流行語大賞はお笑いの言葉から選ばれることがあったけど今年は違いましたね。去年は何でしたっけ?-
Dさん「だめよ~だめだめ」

水木しげる
 Cさん「知ってる」
 Gさん「水木しげる」
 Bさん「ゲゲゲの鬼太郎、悪魔くんも見た」
-Fさん知ってる?-
 Fさん「知ってる。」
-Eさんは?-
 Eさん「ないね」
・・・講師は黙っているFさん、Eさんにも名前を呼んで声をかけます。
-先日水木しげる先生がお亡くなりになりました。今日は妖怪が出てきます。-
 Cさん「93歳だった」
 Dさん「先生、任せてください。妖怪大好きだから!」・・・手を挙げて発言します。

ゲゲゲの鬼太郎
Dさん「塗り壁、ねずみ男、砂かけばばあ、目玉のおやじ」・・・講師がスライドを指さすと、すぐに答えていきます。

鬼太郎茶屋
-ここは知ってる?水木しげるさんは鳥取の境港で生まれたのだけれど、東京のここ府中市の隣の調布市に住んでいました。その調布市に深大寺というところがあります。そこに鬼太郎茶屋がある。-
 Bさん「行ってみたいな~」

バス
-そしてこういうバスが走ってる-
・・・「ほーっ」と皆さんから反応があります。
-水木しげるさんは沢山の妖怪を描いてきたんですね。-
 Iさん「なんか用かい?」・・・駄洒落を言います。
-日本には色々な妖怪がいます-
 Dさん「外国にもいるよ。フランケンシュタインでしょ、それに狼男とか」
-そうですね。日本の妖怪で有名なものは?-

河童
 Dさん「かっぱ!かっぱはね、水に住むからかっぱ。頭に皿が乗ってて、その皿をぬらしておくんだよ。」・・・河童の説明をしてくれます。
-かっぱという言葉を使ったことわざは知ってる?-
 Bさん「かっぱえびせん、かっぱ寿司」
-かっぱ巻きもあるね。-
 Dさん「かっぱはキュウリが好きだから」
-“かっぱの河流れ”って知ってる?-
・・・皆、知らない様子。
-かっぱが河に流されてしまう。河に住んでいて泳ぎが上手くても、油断していると失敗してしまうっていうこと。他には“へのかっぱ”って知ってるかな?-
 Bさん「へ?」
-おちゃのこさいさいってこと。他に日本の妖怪といえば?-
 Dさん「ろくろ首でしょ、あ、座敷童!」

天狗
 Dさん「てんぐ!」
-そう、日本の妖怪といえば天狗。高尾山とか、山のお寺に居る。-
 Bさん「天に鳥?」
 Iさん「天に、手偏にこうやってこう書く・・・」・・・指で書いて説明してくれます。
-Iさん、こっちてきてボードに書いて。-
・・・Iさんが漢字で書きます。色々考えながら、控えめに「天狗」と正解を書きます。
-ことわざで言えば、“天狗になる”って言いますね。-

鬼
 Bさん「赤鬼、青鬼」
 Dさん「でか!これが襲ってきたら怖いな」
-”鬼に金棒“ってことわざは知ってる?鬼はただでさえとても強い。それがさらに金棒を持つんだからもっと強くなるという意味ですね。”鬼の目に“・・・”涙“。”鬼のいぬまに“・・・。”渡る世間に“・・・?-
 Dさん「鬼ばかり!」・・・皆も返答します。
-鬼には角があって、虎の毛皮を履いているけど、それははなぜか知ってる?-
 Dさん「それは、お風呂に入る時とかあるから」

十二支
・・・講師は皆と一緒に十二支を言っていきます。
-牛には角があるよね。その隣に寅がある。この牛と寅の対角をたどると、猿と犬と鳥。この猿と犬と鳥といえば?-
・・・皆考えています。
-桃太郎。桃太郎に出てきて鬼退治をするよね。この反対側に居るのが鬼。-

こなきじじい
 Dさん「こなきじじい!後ろから攻撃してつぶしていくんだよ。子どもの鳴き声を出して、肩に乗せたら一気に石になって潰す」
-そう。その通り。良く知ってるね。―
 Dさん「妖怪大好きですもん」
―昔、赤ん坊が捨てられることも多かった。人間の懺悔の気持ちも入っている-

ねずみ男
 Dさん「ねずみおとこ!屁をして臭い匂いをかがせてその間に鬼太郎を助けるんですよ」
-人間と妖怪の間に生まれたと言われてるんですよね。-

ぬらりひょん
 Dさん「ぬらりひょん!鬼太郎の敵ですから。孫と入れ替わって敵を倒す」
-悪党の親玉ですね。自分では何もしないで、命令する側。-ぬらりひょんやねずみ男のやることは、どこか人間と重なる部分がある。

唐傘おばけ
 Dさん「唐傘おばけ!いい妖怪ですよ。」

提灯お化け
 Dさん「ちょうちんおばけ!」
-傘も提灯も物ですよね。人間、特に日本人は昔から物にも魂が宿ると考えていました。だから物を大切にしなければという考えがあった。例えば、ぬいぐるみに名前をつけて大切にしている人もいますね。物を大切にする心がある。-

あかなめ
 Dさん「あかなめ!」
-水場はジメジメして汚れやすい場所。きれいにしていないと妖怪がやってくる、という戒め。妖怪って人間が心の中で作りだしたもの。-

50%幸福の7か条
-水木しげるさんが幸福の7か条というものを書いていて、それが今話題になっているんです。Bさん、読んでくれる?-
・・・Bさんがゆっくり読みます。皆も一緒になって心の中で読んでいる様子。
-この7か条、どうですか?まずは、“欲をかいてはいけない”。-
 Dさん「失敗は成功のもとって言うよ」
-そして“怠け者になりなさい”。どういうことでしょうね?-
 Dさん「怠け者か・・・。なるしかないじゃないですか。気にぶら下がって」・・・皆から笑いが出ます。
 Iさん「何だか難しいね」
-そして自分の中で好きになるものをつくる。-
・・・皆、難しさを感じながらも考えているようです。
-努力って報わるものではないって感じたことはないですか?努力しても頑張っても返ってくることは少ない。-
 Iさん「そうね。自分は裏切られたから。」
-それでも好きなことをつくって、そして休みなさい、っていうこと。自分の力とか、目に見えるものだけで動いてるわけではないということでしょうか。妖怪がどこかで見てるかもしれないってこと。-
 Bさん「難しい」
-水木しげるさんは、左腕がないんです。戦争で吹き飛ばされてしまった体験がある。だから人の3倍頑張ってきた。苦労してきたのですね。「腕が2本あったら6倍がんばれた」とも言っています。

ああ玉砕
-水木しげるさんは妖怪だけではなくて、このような絵も描いている。玉砕ってどういう意味かわかりますか?負けっていうか、全員死ぬということ。一人生き残ったら地獄の苦しみがある。何で生き残ったんだと非難される。水木さんはそんな南方の戦線に送られて左腕を失った。そういう思いをしてきて、そして40歳を過ぎてからようやく漫画が売れるようになった。色んな経験があってこそ、この言葉が出て来たのだと思います。-

生きる覚悟
-覚悟をもって生きなければ。人に裏切られたり、報われないこととか、必ずある。だからといって逃げても仕方がない。そういう時は休みなさい、って。-
 Hさん「そのとおり、そのとおり」と目を伏せます。
 Iさん「今、休んでるんだよな?」
 Hさん「うん」
 Dさん「小学生の時から覚悟はありますよ。虐められようが、馬鹿にされようが・・・。学校の先生に嫌われようが、何を言われても、生きる覚悟はもうとっくにできてます。」・・・力強い口調で発言します。

一人の人間として、大人として
-皆さんは一人の人間として、大人として振る舞いが試されますよね。あんまり頑張りすぎないで。出所したら、何とか取り返そうとしてしまうでしょう。-
 Iさん「そう。焦っちゃいますよね」
-でもゆっくりでいいです。時間をかけて一日一日を大切に。-

ねずみ男けんか腹減る
-“けんかはよせ。腹が減るぞ”。思い通りにいかないからといって、戦ってばかりは疲れる。名台詞ですよ。“喧嘩はよせ。腹が減るぞ”。」
 Dさん「いつもそう思ってきましたよ」

支離滅裂
 Dさん「なんですか?難しい」
 Bさん「離れるってことか?」
-“離、滅、裂”の3文字を見ると、ばらばら、めちゃくちゃな状態ってこと。でもこの字(⇒支)だけは支援の支。支え、支えられるという関係をね、その中で生きていってもらえれば、と思っています。-
-では最後にBさんからひと言-
 Bさん「ソフトボール大会とか運動会とかありがとうございました。左足が痛くて、水が溜まって、でも無理してしまって、迷惑をかけてすみません。言葉が悪くて、喧嘩しそうになったけど、そういうときは先生に報告して、ちゃんとそう言っておきます」

<講話を終えて>
今回はたくさんの妖怪がスライドに登場しました。次々と妖怪が映し出されていく早い展開に受講生たちは難なくついていきます。文字よりも絵の方がわかりやすいのか、水木しげるさんの描く妖怪たちに馴染みがあるのか。特にDさんは妖怪が大好きで、講師が話す間もなく、妖怪について次々と説明をしてくれます。“何と詳しいのでしょう”という驚きや豊かな知識に感心するだけではありません。嬉しそうな表情で「僕は妖怪が大好きですから!」と何度も言いながら、堂々たる説明ぶりを観ていると、Dさんの人となりが見えてくるような気がするのです。 

そして、Dさんの力強い発言は心が突き刺されるようでした。
“覚悟をもって生きなければ。人に裏切られたり、報われないこととか、必ずある。だからといって逃げても仕方がない。そういう時は休みなさい”
・・・Dさん「小学生の時から覚悟はありますよ。虐められようが、馬鹿にされようが・・・。学校の先生に嫌われようが、何を言われても、生きる覚悟はもうとっくにできてますよ。」
“けんかはよせ。腹が減るぞ”。思い通りにいかないからといって、戦ってばかりは疲れる“
・・・Dさん「いつもそう思ってきましたよ。」

繰り返しになりますが、福祉講話は1か月に2回。私は2か月に1回聴講させていただいています。当然、後部で同席。そのため受講生の表情はほとんど見えません。でも、Dさんの背中から表情が感じられ、訴えるものがありました。これらの言葉から、そう言わせるに至る過去の体験を想像させられます。それを聴きながら他の受講生も自分の体験と重ねていたのかもしれません。講話の終了後に講師から、Dさんと、そして後ろにいたHさんが涙で目を潤ませていたと聞きました。

講師の神業なのでしょうか。“妖怪”から“生きる覚悟”への展開と、Dさんから発せられた言葉は予測されていたのですか、と尋ねると、「これまでの講話の時間で、受講生皆さんを観て、話を聴いてきました。」とだけ返答いただきました。講師は、この講話の時間を大切にしていて、そして講師の受講生に対する”想い“が受講生に伝わっているということ。講師が大切に積み重ねてこられた過程の一部分を切り取って見ているにすぎません。これまで積み重ねて来られた過程、そして今後の積み重ねの中での”変化“を文章化して残しておくことができたらどんなに良いだろうと思います。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(18)

2015年9月28日府中刑務所 社会福祉講話

今回は2015年度第12回目の講話です。11名が受講されています。20代1名、30代2名、40代2名、50代が2名、60代が4名、そのうち、4名の方が療育手帳をお持ちです。

-最近は、どんなことがありましたかね?-
「鶴竜優勝!」
「東京の殺人事件」「○△市で看護師が殺された」
「わからない事件が多いね」
-川島なお美さんがガンで亡くなりましたね-
「あ~」
・・・受講生たちがどよめきます。
-50歳代。私と同年代だから感慨深い-
 「僕は未だ未だだな」
 「僕も」

-ちょうど1年前。何があったか覚えていますか?-
 「1年前か~」
 「ここに居なかった」
 「わかんないな」

御嶽山の噴火
  「あ、桜島!」
 「違うよ」
 「みたけさん?」
 「おんたけさん」
-そう、御嶽山の噴火がありました。あれから1年経ったんですね。57人もの人が亡くなった噴火です。1年はあっという間ですね。-

鶴竜が優勝
-そして、次はこれ。鶴竜が優勝しましたね。-
 「朝青龍」
 「朝青龍はもういないよ。白鵬だよ。」
-相撲は日本の国技だというけれど、横綱は皆モンゴル出身ですよね。-

南アフリカに勝つ
-選手が何故こんなによろこんでいるのか?-
「優勝したから!」
「違うよ」
-そう。優勝ではないんです。今、ワールドカップがイギリスで開催されているでしょう。日本が南アフリカと対戦して初めて勝ったんです-
「へえ~」
-南アフリカに勝つ、ということは奇跡的なことだったんですよ。この後、スコットランドに完敗しちゃったんだよね。-
「なんだ~」
-高校野球のチームがプロ野球のチームと戦って勝つ位の出来事だったともいえるかもしれません。皆が良く知っている“サッカー”って、ボールを蹴るよね。“ラグビー”は横あるいは、後ろにボールをパスするというルールなんです。だから、いっぱいパスをつながないと前に行けない。一つひとつのパスを大切にしていくから、チームワークと体力を兼ね備えてないといけないスポーツなんです。人生に似ていますよね。人生も、なかなか前に進めない。-
「上手い!」
「座布団5枚」
「豚肉3枚!」
・・・受講生たちは大笑いです。

秋といえば
-他に秋といえば?-
「食欲の秋」
「読書」
「スイーツ!」
「そんなの聞いたことないよ」
「勝手につくるなよ~」

曼珠沙華
-この花は知ってる?-
「コスモス」
「彼岸花」
-そう。彼岸花。他に何と言うか知ってる?-
「曼珠沙華」
-そうです。良く知ってるね-
「歌であるから。読め、って言われたら読めない」

田んぼ
-秋は新米が出てくる季節です-
実りの秋
-日本は米を作る国でした。皆さんの中で、農家で育った人は居ますか?-
・・・数名でしたが手を挙げます。

-こういう風景みたことある?Aさんは知ってるかな-
 A「稲を干してる。乾燥して脱穀しないといけないから。」
 B「うち(生まれ故郷)は違うよ。こういう干し方じゃなくて積み重ねていくんですよ。」
-稲刈りするだけではなく、乾燥させないと虫がつく。天空米って知ってますか?-
 「知らないね」
 「聞いたことある!」
-スキー場のリフトに乗せて干しているそうです。そうすると満遍なく空気が入っていい米になる。-
 「へえ~」

-皆は絵を描ますか?-
 「Bさんは上手いよ」
 「そんなことないです」・・・Bさんはすかさず返答します。
-以前、描いてもらったことありましたね。上手に描いてましたね-

ナポレオン
-これは田んぼなんです-
 「田んぼに描いてるの?」
 「描いてるんじゃないよ、貼ってるんじゃない?」
-植えているんですよ-
 「は~」
 「ほ~」
 「初めて見た、すごいね」
・・・うつむき加減だったGさんが身を乗り出して画像をみています。

アート
-色分けして、特徴の違う苗を使って計算して1本1本植えて出来上がる-
 「さすが」
 「すげ~」

アート
-青森の田舎舘村。横から見るとわからないけれど、上から、丁度建物の4階あたりの高さから見ると、こんな風に見えるようになっている-
 「やるね~」

図11図12図13図14
-これは何でしょう?-
 「田んぼの“た”」
-今日は頭の体操をやってもらおうと思います。“水”と書くと、「水田(すいでん)」でも、人の名前だと水田(みずた)さん。“山”を書くと山田さん。そこで、下に田がつく苗字を考えて書いてもらいたいと思います-
 「え~」
 「よしやるぞ!」
・・・配られた用紙に、皆さん思い思いに書いていきます。
 「わかんないな」
 「アウト!」
・・・用紙とにらめっこをしている様子も見られます。
-どんどん思いつくものを描いてみてください。-
・・・“田”の周りに、時間をかけて3~4つ思いついた文字を書くBさん、四方八方に文字の大きさを変えて書くEさん、周りに書いた文字を矢印でつなげるDさん、中央の“田”の字と関係なく、用紙の端から思いついた苗字を書き並べるCさん、11人の個性が用紙に表れます。
-では聞いていきましょう-
 「藤田、神田、生田、岡田」
-1人ひとつずつ言っていこうか-
「森田」
「・・・」
-関連付けて考えてみると、思いつくかもしれません。「森田」、の“森”と関連するものは林、・・・木、「林田」「木田」。
・・・ホワイトボードに文字を書きながら受講生に問いかけていきます。
-“上”ときたら?-
「中田」
「下田」・・・即答です。
-“村”は?-
 「村田」
 「町!」
-松竹梅も“田”をつけると苗字になるね。-
 「松居直美!」
-“杉”もありますね-
 「杉田かおる!」
-方角だったら?-
 「北田」
 「東田」
 「南田」
 「西田」
-“川田”もあるね-
 「池田」
 「海・・・」
 「及川!」
-“田”が付いてないよ。池に似ているものがあるよね?-
 「沼」
-そう、沼田-
 「どうぶつもあるよ」
-そうだね。犬田とか・・・-
 「猿」
 「猫」
-鶴は万年・・・?-
 「亀!」
-色はどうかな?私は赤平だから、赤田
 「黒田」
 「青田」
-何でも苗字なりますね。日本人すべてが苗字を付けるようになって100年ちょっとしか経ってないんですよ。なぜ皆に、こうして考えてもらおうと思ったかというと、頭の体操をしてもらいたかったから。色んなことを関連づけて考えていくという体操。-

自由な発想 発想の転換
-ではCさん、これはどういう意味でしょう?-
 「・・・よくわかんないな~。思いついたときに切り替えるってことですかね」
-見方を変えるってこと。例えば、このペンを横から見るとペンに見えるけど、前後のこの側面からこうして見ると、丸の形に見える」
 「・・・」・・・講師が手に持っているペンを皆、真剣に見ています。
-皆が今持っている鉛筆も見る角度を変えると・・・六角形に見えるよね-

自由 と 責任
-自由って何でしょうか?-
 「プレッシャーがかかるよ」
-そうだね。何をしてもいいってことではない。責任が問われる。-
 「・・・」・・・頷く受講生、黙ってスライドを見ている受講生、講師の顔を見ている受講生、それぞれの思いがある様子です。
-先日、ここを卒業した人に会いました。刑務所を出所して、社会福祉関係の事業所で働きながら、アパ―トで暮らしているMさん。Mさんは50歳代で、刑務所に10回以上、入った経歴がある。そのMさんが、2年半、刑務所に戻らずに生活しているんです。Mさんがね、話してくれました。一人で何でもやってしまおうという気持ちが強かった、って。-
 「頼っていかないとね。一人ではできない、失敗するよ。いいこともあれば悪いこともある。けど乗り越えていかないと駄目。そう思ってますよ」・・・Hさんが語ります。
-そうですね。そしてね、Mさんの暮らしで特徴的なことがあるんです。それはカレンダー。お部屋は散らかっていて、きれいとは言えない状態なのだけど、部屋の壁などに沢山カレンダーが貼ってある。全部で8枚。-

カレンダー

-Mさんは、一日が終わると、終わったという印として、8枚のカレンダー全ての日付を×印で消しているんです。その日が“無事に過ぎた”という思いで2年半続けている。日々、小さな失敗は重ねているのだけれど、幸いにそこを支援してくれる人が居る。ささやかな幸せを手放したくないというMさんの思いが、このカレンダーに表れていると感じたんです。Mさんにとって、1日1日無事に過ごすことは大変なことだったのだと思います。良いことや反省とか、日記書いている人はいますか?-
 「はい!」・・・数人が手を挙げます。

あなたのページ
-これからはね、皆さん一人一人が描いていってください。
 では、そろそろAさんの歌を-
 Aさん「何を歌うか迷ってるんだよな~」・・・Aさんは照れているかのような仕草見せながら颯爽と前に立ちます。
-講話の時間で、いっぱい発言してくれて、元気いっぱいでしたね-
 Aさん「マイク、あー、あー」・・・ホワイトボードのペンをマイクに見立て、マイクのテストをしています。そして皆に向かって話します。
Aさん「皆さん、仲良くしてくれて、話しかけてくれてありがとう。」
Aさん「何を歌おうかな~」
 「AKB?」
Aさん「いや~、どうしようかな~」
 「見上げてごらん夜の星を!」
 Aさん「あ、いいね。それにしよう、“見上げてごらん夜の星を”を歌います」・・・Aさんが歌い始めます。
Aさん「見上げてごらん 夜の星を♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪
      小さな星の 小さな光が
      ささやかな幸せを うたってる
      見上げてごらん 夜の星を ♦♫♦・*:.♦♫♦*゚。♦
      ぼくらのように 名もない星が
      ささやかな幸せを 祈ってる♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚♦」
・・・受講生はAさんを見つめて歌を聴いています。Jさんは最後のフレーズを口ずさみ、Bさんは涙を流しています。
 Aさん「Bさん、どうしたんだよ。何泣いてるんだよ。泣くなよ~。」
・・・Bさんは涙が止まりません。
 Aさん「先生にも挨拶。」
・・・Aさんは講師に感謝の思いを言葉にしています。
-頑張って。よい知らせがくると嬉しいです-

<講話を終えて>
Aさんの歌声は力強いものでした。想いを歌に込めていたのだろうと思います。受講生たちは、心の中でAさんと一緒に歌っていたのかもしれません。“感動”という言葉で表すだけでは物足りないのですが、かといって別の言葉にもできません。Aさんの歌に心が揺さぶられた理由の一つは、講師の話の中で触れられたメッセージとAさんの歌った歌詞のフレーズが重なっていた、ということです。それは、“ささやかな幸せ”という言葉。Aさんは受講生の中でも年齢が若い方です。坂本九さんをリアルタイムで知りません。その若いAさんが、好きな“AKB”ではなく、“見上げてごらん夜の星を”を歌ったこと。当然、台本があったわけではなく、偶発的な出来事でした。講師と受講生とが引き起こした“奇跡”なのでしょうか。日々の生活の中で生まれる小さな奇跡、これが講話の時間の中で積み重ねられていくことが、受講生の心を豊にしているのではないかと思います。受講生一人一人が“ささやかな幸せ”に想いを馳せていたのだろうと思います。気が付くとBさんが泣いていました。最初はこらえていたのですが、自然に湧き起こる涙を抑えることはできなかったようです。そんなBさんに「泣くなよ・・・」と声をかけていたAさんですが、Bさんの涙が嬉しかったのではないかと想像します。そしてまた、その様子を見ていた他の受講生たちもまた同様の気持ちだったかもしれません。

刑務所に入っている受刑者ですが、ひとりの人としてここに居るのだと改めて考えさせられます。一人一人の存在価値を支援者が大切にするだけでなく、受講生自身がその価値をみつけていくこと、講話の時間を通して、その力が引き出されているのではないでしょうか。

刑務所に入っている受刑者ですが、ひとりの人としてここに居るのだと改めて考えさせられます。一人一人の存在価値を支援者が大切にするだけでなく、受講生自身がその価値をみつけていくこと、講話の時間を通して、その力が引き出されているのではないでしょうか。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(17)

2015年7月28日府中刑務所 社会福祉講話

今回は2015年度第8回目の講話です。10名が受講されています。20代1名、30代2名、40代2名、50代が1名、60代が4名です。

-暑い。暑いよ、今日は。今年一番の暑さになるそうですよ。36℃超えるって。-
「ウェ~」
・・・数名が声をあげます。
-ウェ~-
「ウェ~」
・・・講師が反復すると、すかさず受講生も反復をする。そんなやりとりをして一気に雰囲気が暖かくなります。

Aさん「仙台はこんなに暑くないですよ」
-仙台は、来月は七夕だもんね。では、いつもの通り出席をとらせていただきます-
・・・講師は一人ひとりの名前を呼び、顔を見て確認していきます。受講生は全身を使っているかのように大きな声で返事をします。そして、講師は、一人ひとりに、ひと言声をかけて、受講生の発言を引き出していきます。

-笑顔がいいね-
 「相変わらず元気です。」
-元気?-
 「はい。」
-暑いね-
 「暑いですね。」
-足は大丈夫?-
 「大丈夫です。」
・・・講師と受講生が1対1で向き合う瞬間です。

1
-さて、前回から3週間空いたから、いろんなことがありました。昨日、近くで大きな事故がありましたね。-
「飛行機が落っこちた」
「うん。知っている」
「ドカーン!」
「ドッカーン!!」
-調布ってどこだか知ってる?-
  「田園調布」
-その調布とは違うんだな。サッカーで味の素スタジアムってあるの知ってる?そのすぐそば。そこに調布の飛行場があってね。5人乗りとかの小さなセスナ機が大島へと飛んでいく。それがね、離陸した途端に民家に突っ込んで全焼しちゃってね。-
「へえー」
「だから、昨日ののど自慢が5分遅れたんだ」
「うわあ、やべえ」
-これも暑さのせいじゃないかって。エンジンに支障が出たんじゃないかと言われてる。-
「居眠り運転じゃないの」
-車の居眠り運転じゃなくて、飛行機で居眠りしたらは必ず死んじゃうからね。-
「亡くなった人がいるよ。3人」
「操縦士と民家の人」
-そう。民家の人は予想がつかないことだけど、でも飛行場の傍に住んでいるっていうことは可能性としてはゼロではないんだよな。ここ、府中の上も飛行機飛ぶでしょ。-
「うん、うるさい」
「立川にもあります」
-立川にも基地がある、東京にも基地があるんですね。立川、福生もあるし、朝霞にもある。神奈川の厚木も。関東地域にも結構ある。-
「地元にありますよ。自衛隊」
「航空ショー見に行った」
「行ったことない」
「地図で調べたら、これ、すぐそばなんですよね。」
-京王線で行くとね、特急で府中の次が調布ですから。すぐ近くですよ-

2
-今週はずっと、34℃35℃と、続くらしいですから。暑いので、体に気をつけてください-
「水飲みまくってますよ。」
-みんなはどう?ここでは好きなものは飲めないけど、喉が乾いたら何を飲みたい?-
「コーラ」「ビール」「ジンジャエール」「サイダー」「ファンタオレンジ」「酎ハイ」

-Dさんは?-
Dさん「今のところわかんない」
-Iさんは?-
Iさん「何でも飲みますよ、アルコールは。ビールでも焼酎でも。」
-夏はビールですか。-
Iさん「いやビールよりお酒がいいね」
-あ、そう。冷やですか?-
Iさん「お燗は飲めないから。冷やだよ。冷やだと5~7合」
-Bさんはビール派?-
Bさん「焼酎ですね。瓶で3本くらい」
-瓶で3本?それは飲み過ぎだよ。-
Bさん「いやあ、好きだから。それで失敗したけど・・・」
・・・皆さん大笑い。
-まあ、私も人のこと言えないけどね。-
Aさん「先生は飲まないんですか?酒豪ですか?」
-どうかな。お酒は好きだけど、いやあ、もう体ついていかなくなる。-

3
「隅田川の花火」
-大きい花火大会だと、長岡とか、秋田の大曲とかあるよね。 この近くだと・・・-
「ここでも聞こえるよ」
「競馬場」
-そうか。競馬場の花火があがるんだね-
「昨日もあがった」
「ドッカーン」
「雷かと思った」
-そうでしたか。-

4
「白鵬!」
「2場所ぶり」
-考えると早いよね。前回講話をやって時はまだ場所が始まってなかったのに、今回の講話ではもう優勝きまってるんだよね-
「全勝じゃないから、前より力落ちた」
-今度は誰の時代が来ると思う?-
「照ノ富士」
-他の二人の横綱はどう?-
「駄目だね」
-全員モンゴル人だね-
「日本人がもっと頑張らないと」
-Dさん、期待できる力士って?-
Dさん「いない。・・・遠藤とか」
-遠藤ね。まあ、相撲も世代交代してもらわないとね。野球は野球で、1週間見ないと順位がころころ変わるね。ヤクルトが7連勝していて驚いた。
-パリーグはソフトバンクが強すぎるからね-
「楽天は星野に監督やってもらいたい」
-星野さんはもうつかれちゃっているからね・・・-
「じゃあ長嶋」
-長嶋って一茂の方?-
「お父さんの方」
-お父さんの方はもっと年ですよ-
「じゃあ、王」
-王さんは、ここの出身-
・・・話の展開を予測していたかのように次のスライドへ移ります。

5
「出た~。早稲田」
-西東京代表が早実に決まりました。昨日の試合は知ってる?8回まで5対0だったけど、逆転勝ちしたんです。今年は甲子園大会100回目。その記念大会で始球式をするのが王さん-
「へえ~」
-王さんの出身校が早稲田実業。王さんが始球式をする大会に行かないわけにはいかないと一生懸命やっていたんです。-

6
-今は何年だっけ?-
「2015年」
「あと5年だね」
「あ、オリンピック!」
-そう。5年後の7月24日に東京オリンピックの開会式がある-
「へえ~」
「俺3●歳」
-その時、皆さんは、少なくともここにはいないはずですから。
・・・あちらこちらで話し声や笑い声の反応があります。

7
「すげえ~」
「飛行機みたい」
「8万人収容できる」
―そう。これがね、新しい国立競技場。昭和39年の東京オリンピックは知ってる?アベベって知ってますか?エチオピアの人、マラソンで2回連続金メダルをとった。裸足で走ったのはローマ大会、その次の東京ではちゃんと靴を履いて走った。それこそ、国立競技場から調布まで来て、折り返して競技場までのコースだった。その国立競技場は潰してしまって、新しく立てようとしたら、高すぎるということが問題になってる。皆、前のオリンピックってどこだったか覚えている?-
「バンクーバー」
-この前はロンドン。その前は北京。開催する国では、新しい競技場をつくる。その予算が500億円くらい。大体その位かかる。
ところがこれは2500億円。5倍もかかる。東京オリンピックはお金かけないでやるって言ったのにおかしいでしょ、ということになっている。他にも道路の整備にもお金がかかる。全部合わせて考えたらいくらかかると思う?-
「1億以上」
-この競技場一つで2500億ですよー
「そっか」「あはは」・・・笑いが出ます。
-2兆円-
「2兆円?そんなお金どこにあるの?」
「ないよ」
-そう。だから税金とか、寄付とかがないとできない。これから果たして・・・-
「成功するの?」
-オリンピックは色んな国でやるべきものでしょ。日本は何回目?-
「3回」
「あ、長野があるから4回」
-東京が2回目、札幌と長野。日本だけで4回。アメリカは8回。フランスは5回。同じ国で持ち回りでやっていて、なんだか平等にはなってない。何故なんだろう。-
「お金がかかるからだね」
「オリンピックの会長が駄目だね」
「ただで作ればいいのに。チケット代もただにしてさ。」
-ただできればいいよね。競技でゴールテープ持つ人、タイム計る人、いろんな人がいて、はじめて競技が成り立つ。だから中々ただというわけにはいかないですよね-
「じゃあどうすればいい?」
-どうすればいいでしょう・・・-

8
-世の中で騒ぎになっていること、国会の話をしましょう。安保関連法案。国会の周りでデモ行進があった。今年は戦後70年。ということは逆に言うと、70年戦争していないということ。この平和な時代がどれだけ守られるか。海外で戦争が起きているときに、日本は自衛隊が助けに行っていいのかどうか、もめておりました。日本は憲法の中で、戦争には参加しない、武器をもたないといっている。だから日本は軍隊ではなく自衛隊がある。この世の中、正しい戦争というのはないわけです。例えば、喧嘩と戦争の違いは?-
・・・受講生は講師の話を黙って聞いています。

9
-これは何て言ってるんだろうね。-
「ふざけんな!ぶっとばすぞ!」
-どっちが?-
「帽子かぶってない方」
-じゃあもう一人は?-
「うーん、怖い」
-じゃあ、ちょっと聞いてみようか。Fさんはどう?-
「やってやろうかこのやろう!」
-それは選手の方?じゃあ審判は何て?-
「そんなことしたら退場しますよ」
-私だったら・・・選手が「どこに目をつけてるんだ」、審判は「お前と同じところに目がついてるんだよ」-
・・・皆、大笑いです。
-顔を突き合わしてにらみ合う。これは戦争じゃないですよね。-

10
「猫がいがみ合ってる」
-1対1は喧嘩。戦争というのは1対1ではない。他の弱い人を巻き込んでしまう。戦争で犠牲になるのは弱者だから。関係のない人が犠牲になる。そういった意味で、戦後70年、総理が世界へ向けてどんな談話を出すか注目されています。だから戦争はやってはいけない-

11
-前回はグループで話し合いをやったでしょ。テーマはなんでしたっけ?-
「いじめ」
-そう。皆たくさん話をしてくれて、とってもすごいなと思ったんです。そう。今日もね、グループにわかれて、違うテーマで話してもらおうと思っています。テーマは・・・-
「AKB!」

12
-残念でした。今日のテーマは老後-
「え~」
「まだまだ先だし」
-では、老後はまだまだ先だと思っている人、もうちょっとだと思っている人、で話をしてもらいましょう-
・・・5名ずつ、2つのグループにわかれて、椅子の位置を動かして、向き合って話しやすい体制をつくります。そして記録係を決めて早速話し合いが始まります。

13
不安になるか、どんな不安か。その不安を少しでも減らすには何が必要か
-進め方はこの二つです。-
早速、受講生から意見が出ます。Aグループのディスカッションでは、老後の不安について、
「ない。あるとしたら病気」
「あるとすれば生活かな」
「うーん体力かな。あと何年くらいかな?・・・12年か。」
「あ。自分は気力とお金がなくなること」
「やっぱ定年退職かな。定年退職した生活の仕方は爆笑かあ。吉本でげらげら笑うかな」
などの意見が出ました。受講生なりに考えて発言をしています。病気にならない方法については、

「色々食べ過ぎないとか?」
「やっぱ健康でいたいとか、あんまり病気になりたくないね」「食べ物のバランスだね」
「人との付き合い」
「うーんないな。筋肉をつける。筋トレとか。」
「そうだな。何があるかな。えーっと、努力すること。仕事とかで真面目に定職につくとかそういうことかな」
「ちょくちょくお金を貯める。そしたら焼肉食べる」
・・・等、笑いを交えてディスカッションが進みました。15分ほどディスカッションをした後、まとめとして各グループが発表をします。まずはAグループGさんが発表します。

Gさん「最初に老後に不安はあるか。病気、体力、お金。その不安を減らすために必要なことは、健康でいられること、食べ物をバランスよく食べること、人とのつきあい方、筋力をつけること、仕事をがんばること、真面目にお金を貯めること、まとめの答えは病気にならないこと。」

・・・次いで、Bグループの発表です。「老後」はより身近なテーマです。老後の生活ばかりでなく、身寄りのない自分たちが死んだときのことまで話は進んでいました。その中でのもっとも積極的に自分の体験を語ってくれたBさんが発表してくれました。

Bさん「仕事に対しての不安。住む場所がない。生活の安定。亡くなった時、誰が見てくれるのか。無縁仏は困るから、役所の人に頼んでおく。不安を減らすためには、生活保護を受けて面倒見てもらう。自分で仕事を探す。ガス代とか切り詰める。悪い人とは付き合わない。何でかというと、お酒とかたかられて自分の生活ができないから。」

-ありがとうございました。二つのグループを見ると、こちら(Bグループ)が、より現実的に直面する問題で捉えてる。
皆真剣に考えてくれてありがとう・・・。

ではHさん。Hさんは、とても優しい人でした。私がね、凄く感激したのは、私が書き残したホワイトボードをHさんがすっと立ってきて、それを消して、「俺はこんくらいしかできないから」って言ってくれたことを覚えています。感謝してます。この人は優しい人なんだなと思いました。だから出所した後もね、優しい気持ちで人と付き合ってください。ではみんな、この前のNさんみたいにHさんにも最後に一言お願いしましょう-
「イエーイ」
・・・拍手がわきます。

Hさん「1年半位、先生のおかげで、大変勉強になりました。ほんとにお世話になりました。どうもすみません。」
・・・大きな拍手が起きます。
-すみませんってことはないですよ。Hさん、暑いから、まず体を大事にしてください。がんばってね。-

<講話を終えて>

グループに分かれてディスカッションをするという取り組みは、今回が2度目だそうです。“出された課題について話し合い、結論を出す”ことを受講生は見事に成し遂げます。

“老後”というテーマ設定、そして受講生のグルーピングの仕方に講師の意図があったかどうかはわかりません。しかし、グループメンバーの一人ひとりが自然に役割を果たし、ディスカッションが進んでいたように見えました。Fさんは確実に記録をとりながら、進行役も務める。Gさんは全員の意見を尊重し、場を盛り上げる。Iさんはグループのムードメーカー。遊びの部分があって、自然と皆のモチベーションがあがります。Jさんはその場の雰囲気を感じ取りながら、冷静に自分の意見を発言。その意見がディスカッションの内容を補っていました。Aさんも、全員の意見に耳を傾けて場を盛り上げつつ、全員が意見を発言できるように進行役の補佐をしていました。

ディスカッションの詳細なやりとりとグル―プの力動はここでは記述できませんが、一人ひとりの個性が出る、一方でグループの力も発揮されている光景に驚きました。約15分間、その途中、タイミング良く、そしてディスカッションを止めることなく自然にグループの中に入り、講師の促しがありました。講師の介入の仕方を見ると、一つのソーシャルワークグループワークともいえるかもしれません。グループワークを通して、受講生の力が引き出される。その力は、1対1の面接で把握することは難しいのだろうと感じます。

そして、今回はもう一つ印象に残る場面がありました。Hさんの“最後のひと言”をいただいた場面です。講師が、Hさんが“ホワイトボードを消してくれた”時のことを話していた時、Hさんは講師の顔を見上げて、じっと見つめながら聞いていました。少し驚いたような表情で、その目は潤んでいました。自分のことをこんな風にみてくれていたのだという感覚があったのかもしれません。単に講師の支持的な関わりではなく、1年半という期間の中の、講話の時間で築かれたHさんと講師の関係性とお互いの思いの深さは、私には想像しがたいものなのかもしれません。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(16)

2015年6月8日府中刑務所 社会福祉講話

今回は14名が受講されています。年齢は20歳代1名、30歳代3名、40歳代1名、50歳代4名、60歳代5名。5名が療育手帳をお持ちです。社会福祉講話は毎月2回行われており、今回は2015年度第5回目の講話です。

日付

-蒸し暑いですね。元気ですか?-
-前回、出欠をとったら、皆さん元気よく返事をしてくれて、いいなあと感じたので、今回も出席をとりましょう。-

・・・講師は一人ひとりの名前を呼び、顔を見て確認していきます。

-Aさん-
「はい!」・・・右手を挙げて大きくはっきりとした口調で返事をします。
「いいね~」「お~」・・・他の受講生が返事の仕方を褒めると、場の雰囲気が一気に和んでいきます。

梅雨

-もうすぐ、1年も半分。そしてもうすぐ梅雨ですね。-
-梅雨入りは、どこが判断するのでしたかね。-
「気象庁」
-そう、気象庁。東京は、未だ梅雨入りはしていないようです。-

・・・受講生は頷きながら聞いています。

アジサイ

-きれいな青でしょ。昨日近所に咲いていたので写真を撮ってきました。-
「いいね~」
-紫陽花は他に何色があるかな?-
「白」「ピンク」
-最近、白い紫陽花を良く見かけますね。皆さんは小学生の頃、酸とアルカリって習ったでしょ。紫陽花の色は、その花が咲いている場所の土の養分が、酸性かアルカリ性かで色が変わるんですって。知っていました?-

神輿

「祭りに行きたい」「やりたい」「担ぎたい」・・・スライドを見るや否や受講生が次々と発言します。
-6月は祭りが多い時期です。町を守ってくれる神社が各地域にあって、そこで例大祭という祭りがある。府中でいえば大國魂神社。新宿では花園神社があります。-
-皆さんはお神輿を担いだことはある?-

・・・数人が手を挙げます。そして講師は手を挙げた人全員に聞いていきます。

Bさん「公民館のお祭りです。」
Cさん「仙台の七夕まつり。地元だから。」

-日本三大祭りのひとつですよね-
・・・Cさんは嬉しそうな表情を見せます。
Dさん「団地の。」
Eさん「地元の方で。」
Fさん「みや祭、宇都宮の。神輿も・・・。」

-神輿に担がれた?-
「担がれたんじゃなくて、担いだよ。半被着て。」・・・受講生が笑います。
Gさん「神輿は知ってるよ。見てるだけ。祭りは大好き。」
-刑務所の作業でもこの神輿を作っているんです。知っていますか?

「・・・」・・・だれも知らない様子です。

-富山と千葉刑務所です。立派な神輿で、1000万円以上もするそうです。-
「すげえ~」・・・受講生はどよめきます。

噴火

噴火2

-これは何だかわかる?-
「噴火」

-どこでしょう?-
「どこだっけな~」「沖縄」「鹿児島」「桜島」「富士山」

-富士山?だったら今頃大変でしょう。-
Fさん「ハエが飛んでくる」
-ハエ?灰でしょ?-
・・・受講生は大笑いです。

-最近、地震もありましたね。-
「あった」「先週」

-昨年の噴火のこと、覚えていますか?-
「長野」「御嶽山」

-そう、御嶽山が噴火しましたよね。人間の力ではどうにもならないことがある。-

チャイニーズ船

-これは知っていますか?-
「・・・」

-中国の旅客船が沈没した事件です。事故と事件は違います。人が関わって起こることは事件。この船に荷物を沢山積み過ぎて沈没。400人以上もの人が亡くなった事態の中、船長は助かった事件。
-「頭、おかしいな」
-この2週間の間、いろんな事件がありました。-

年金

-どういうニュースかわかりますか?-
「・・・」
-今、年金の情報はコンピューターが管理していますが、5万人分の情報が盗られてしまったんです。怖いことです。どうしてかわかる?-「個人情報」「漏洩」

-どうして怖いことなんだと思う?-
「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」「結婚詐欺」

-その詐欺って、住民片っ端から電話をかけているわけではないんですよ。この家は一人暮らしだ、この家はお金がありそうだ、ということが前もってわかっている。家族構成もわかっているから、“母ちゃん、オレオレ”って言う。普通はわからないこと。でもそういう情報を売りさばく人がいるんです。世の中には悪い人が居る。-

「もっと悪いやついるよ、お金を勝手に使ったり」

-皆さんは、刑務所に入っていたことを知られたら嫌ではないですか?-
「嫌だ」・・・受講生は即答します。

-はい、そうですよね。-
-便利なものは、その使い方によって良いことになる、一方で悪いことにもなる。-

石川啄木

-この人知っていますか?-
「石川啄木」「歌人」・・・数名の受講生が手を挙げます。

-今から103年前に亡くなったんです。-
「すげ~」
-何歳で亡くなったのでしょう?-
「26歳」・・・Jさんは、スライドにある年号を見て計算し、返答します。
-Jさんは計算が速いですね。-
「計算だけはね」・・・Jさんは誇らしげです。
-石川啄木は26歳で亡くなった。皆より早く亡くなっている。彼は肺結核で亡くなりました。-

一握の砂

-読んでみてください。-
・・・講師は受講生と一緒に音読します。“猶”を“ねこ”、“たぬき”と読んでしまう一幕もありながら、講師が“なお”と読んで先に進めます。

-みんな、こんな思いをしたことはないですか?-
「ありません」「あります」
-今、生活保護を受給している人は200万人以上います。頑張ってもなかなかうまくいかないことってあるよね。-

サルと人と森

-石川啄木は歌人ですが、実は童話も書いているんです。先ほど皆さんに手を描いてもらったから、お返しに私がこの童話を読みたいと思います。-
・・・講師は受講生の様子をみながら童話を音読します。このお話は石川啄木のエッセー「一握の砂」の一部「林中の譚」をやさしく表現し直した絵本です。ストーリーは、森に住むサルと人間の対話です。森に住むサルは、人間が木を倒し、山を削り、川を埋めて平らな道路を造ってきたと自然破壊を憂え、その道は天国ではなく“地獄の門に行く”と警鐘を鳴らす。現代の文明批評ともいえる内容になっています。以下はその一部分です。

林の中へひとりの人が入って行きました。
高い木の枝にいる一匹のサルが人に問いかけました。
おれたちは人間の祖先なのに、
どうして人間たちはサルをばかにするのだろう。
それに人が答えました。
おれたち人間は、サルと違って頭がいいんだ。
若し、人間がサルの子孫だとしたなら、
どうして人間から大英雄が現われただろうか。
サルが言いました。
人間はなんてかわいそうな生き物なんだろう。
人間はすでに過去を忘れてしまったのだな。
今ここにこうして生きているのは、
おれたちと同じ祖先がいたからではないか。
過去を忘れた者には未来はないだろう。
今がいちばん素晴らしく、
人間がいちばん賢いと思い上がっていると、
これからの人間には進歩も、幸せもないだろう。 
かわいそうな人間たちだ。
人間滅亡のときが近いうちにやって来るだろう。
※引用/
http://blog.livedoor.jp/yasumasasugawara/archives/1932301.html
なお、下記アドレスで絵本の音読を聴くことができます。
http://office.moribito.info/book_ishikawa.html

-このお話はどうでしたか?-
「・・・」・・・受講生は黙っています。講師は数名の受講生に声をかけると、受講生なりの言葉が返ってきます。
Eさん「いい話ですね」
Gさん「人間のおろかさがよくわかります」
Jさん「難しいですね~」

-前半で事件の話や、天変地異の話、年金の話をしましたね。この石川啄木は100年も前に、24歳の時に、この話を書いているんです。文明だけに頼っていたら、いつかしっぺ返しがきます・・・と。-

Kさん「人間もサルも平等で生きていかないと」
・・・Kさんは、ずっと考えていたのか、感じたことを発言します。

-人間がすべて壊しているんですよね。でも壊す力、それだけの力があるなら、平和をつくることもできる。そんな風にも考えられませんか?-
Dさん「戦争か平和かを選ぶなら、平和がいい」

-先ほどの中国の旅客船、荷物を沢山載せた方が得だろうと考えてしたことが犠牲をもたらす。年金の情報、手作業よりもコンピューターで管理する方が、効率がいいだろうと考えてしたことで、情報を盗む奴が出てきた。このことは、色んな意味で教訓が入っている。-

Dさん「戦わなければ、何の意味もないと思う」
Lさん「売られた喧嘩は買うしかないよ」
Dさん「戦争になっちゃったら・・・話し合うしかない」
Lさん「話し合って駄目だったら?」
Dさん「・・・逃げるしかない」
Bさん「力でねじ伏せるしかないんだよ」
・・・受講生同士のやりとりが進みます。講師はその様子を黙って見守りながら、受講生に問いかけます。

-逃げることって卑怯だと思いますか?-
Dさん「戦わないと負けちゃうけど」
Bさん「逃げるが勝ちってことわざがあるね」
Fさん「お互いが協力すればいい」

-戦いを続けると負ける人が出てくる。人間は色んな動物を絶滅させてきましたよね。例えば、日本オオカミは絶滅してしまいました。そして、人間同士でも同じようなことが行われてきた。力に頼って相手を攻撃してきた・・・。でも例えばそこに大きな軍艦がきたら、終わりですよ。だとしたら協力し合えるものがあればその方が良いでしょう・・・と100年前にメッセージを残していた人が居たのです。-

<講話を終えて>

講話の後半、受講生同士の積極的な議論とでもいうべきか、そのやりとりの様子は圧巻でした。さると人と森のお話を受講生一人ひとりがその人なりに咀嚼して何かを感じ、考え、想っていたようです。戦争、喧嘩、勝ち負け・・・について、それぞれの思いが込められた発言でした。それぞれの受講生は単に童話の内容だけではなく、一体何を想像しながら発言していたのだろうと考えていました。

実は、前回の第4回講話では、障害者の権利について話をされたそうです。そこでは、受講生が過去の虐められた体験を吐露したと伺いました。もしかしたら前回の講話と繋がっていたのかもしれません。そうだとしたら、2週間に1回の講話がどれほど受講生に響いているのかということを改めて感じます。

そして、自分の思いを自由に言葉にして表現している様子を垣間見ることができるのは、受講生14人が同じ空間を共有している場であるからではないかと感じます。そこに14人居るからこそ、個性が出るのではないでしょうか。構造化された1対1での面接では見ることができないだろうと思います。

講話の時間は、刑務所の中にあって、受刑者が自分をさらけ出して話をできる場になっているようです。彼らにとって意味のある時間となっていることは言うまでもありません。講師は、その“場”を作ることを許していただける府中刑務所に感謝しながら講話に取り組まれているそうです。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(15)

2015年4月6日府中刑務所 社会福祉講話

今回は13名が受講されています。年齢は30歳代2名、40歳代1名、50歳代4名、60歳代6名。4名が療育手帳をお持ちです。新年度第1回目の講話、新しいスタートです。

-では、はじめましょうか。
4月6日
・・・講師は、今日ここへ来る途中、新しいランドセルを背負った子どもが、親と一緒に入学式に向かっている姿を見かけていました。

-4月に入ると色んなことが変わるよね。今日は入学式だという小学校もありますよ。小学校の頃のこと覚えてますか?

「60年も前だね~」
「そうそう」・・・数名から笑い声があがります。

-Aさん、小学校の時のこと覚えてる?

「変わんないというか、悪いことばっかりしてた。」
「後楽園に一人で行って、帰れなくなった」

-それは、ただの迷子だよ。
「でも、小学校の時からずっと家出してた」
-小学生の時から家出をしていたの?そう。

-Bさんは覚えてる?
「・・・」
-Bさん、今日で最後だね

・・・Bさんは4月に出所する受講生です。講師はBさんに優しい口調で話しかけます。

-今日の最後に何か話したいことはないですか?あれば話して構わないですよ
「・・・」・・・Bさんは遠慮がちに首を横に振り、うつむきます。

―Bさん照れ屋だからね
・・・Bさんは頷きます。そして講師はプロ野球の話、次いで選抜高校野球の話を受講生に投げかけます。

-Aさん、西武勝ってるね
・・・講師は西武ファンであるAさんに声をかけます。
「今年、西武は優勝!!」・・・Aさんは両手を挙げながら西武の話を続けます。

-選抜高校野球。今年は北陸の高校が初優勝したよね、福井県の高校。Cさん知ってる?
・・・講師は北陸の出身Cさんに声をかけます。

「福井ですね」

-敦賀気比高校。2打席連続ホームランを打ったよね。
「そうそう」・・・Cさんも、そして他の受講生も頷きます。

-それから、フランスで大きな飛行機事故が起きたのは知ってますか?
「・・・」
・・・講師は事故の概要を説明します。

-人の命を守る仕事は沢山あるけれど。パイロットが150人もの人を道連れにして。日本人も2人乗っていました。ホテルニュージャパンの火事は知ってるかな?大韓航空の事故もあったよね。命が軽く扱われることがある。
・・・受講生は頷きながら聞いています。

-今日も皆に見てもらいたい写真を準備してきたんだけどね。Bさんの好きな猫の写真も。時間に余裕があれば写真を見れるかもしれません・・・。

ここで、講師は白板に“仕事”と書きます。
仕事
-さて、今日みんなに考えてもらおうと思っていたこと。仕事って何だろうと考える人はあまりいないけどね。

-今までどんな仕事をしてきたのでしょう?
・・・講師は受講生一人ひとりに聞いていきます。

  「土木。あとは、焼き物、皿を作ったり。」
-焼き物、凄いよね
  「真面目だけが取り柄だから」・・・受講生の中から笑い声が上がります。

  「うどん屋、喫茶店」「建築関係とペンキ屋」「左官屋」「マッサージ」
-Eさんマッサージの免許もってるの?
  「勝手にやってた。」

-他には?
  「いたずら!」・・・Eさんも受講生たちも大笑い。
  「色々やったよ」

-いちばん長く働いたのは何?
  「交通誘導かな」「物干し竿を売ってた」
-物干し竿…売れた?
  「売れませんでした(笑い)」
  「調理と車の部品をつくってた」
-調理師免許はとったの?
  「いや」・・・と首を横に振ります。
  「中卒で年季奉公。25年くらい左官屋」「お菓子屋の見習い」「印刷、経理。免許も取ったけど飽きちゃってね」「パン屋、施設に入って色々」

-いろんな仕事をやってきたね。みんな仕事がなかなか続かないね。

ここで、スライドが映し出されます。受講生は映し出された映像に気が向いている様子。

城
サクラ川ボート
サクラ川提灯

-これはどこかわかる?
  「・・・」

-これは横浜。
-じゃあ、これはどこかわかる?
  「・・・」
-目黒川。

-これは?
  「富士山」
-富士山ではないんですね。青森にある岩木山。そして、弘前城。
  「あの、すみません。あれは山桜ではないですか?」
・・Eさんが手を挙げて発言します。

-Eさん、よく見てるね。
-みなさんの故郷の桜の名所は?
  「・・・」

サクラねこ
-Bさんに見せようと思って持ってきた写真です。
・・・Bさんは頷きながら笑みを浮かべて黙って見ています。

仕事
-皆さんは色んな仕事をしてきたじゃないですか。その“仕事”って他にどんな言い方をする?
  「社会」
  「・・・」

-労働とか勤労とかっていうよね。あなたの仕事は何ですか?職業は何ですか?って聞かれたら・・・?泥棒という仕事は社会が認めないです。
・・・受講生の数人から笑い声が聞こえます。

-では、働くのはだれのため?
「自分のため」・・・はっきりとした返答があります。他の受講生も頷いています。

-自分のためだと思ってる人は?
・・・受講生のほとんどが手を挙げます。

-自分のため・・・それだけでいい?働く(はたらく)とは、傍(はた)を楽(らく)にさせるという風に読めるよね。人のため、社会のためにならないと仕事と呼べない。面接で話をすると、どんなに年をとっていても、出所したら働きたい、仕事したい、とほとんどの人が言います。

-例えばね、調理の仕事。料理して相手に食べてもらうと、相手が喜んでくれる。
  「おいしかったと言われると自信がもてる」

-そう。例えば建築の仕事。家を建てる、その家に人が住んでもらう。

-だからギャンブルは仕事じゃない。みんなは、何か人のためにやってきたことある?
  「・・・」
  「給食を持っていくとご苦労様って言ってくれる」

-そう。自分のやってることがだれかの役に立ってると思えることって大切。

-生活保護費をもらうだけだと空しくないですか?
  「ただもらうだけでなくて、とんずらこいちゃったもんね」

-なかなか続かない。続けないとわからないこともある。そのひとつは人間関係。信頼は1日でできるものではない。2~3年かけてできるもの。

-幸せとか不幸せって突然始まるものではない。もちろん予期せぬ事故が起こることもあるけど。例えば、戦争って突然始まるものではない。じわじわと、いろんなことがたび重なって起きる。それって人間関係と同じ。嫌なことがひとつふたつ重なってつくられていく。

-“とんずら”したのも、最初からそう思ってたわけじゃないでしょ?じわじわとおこる犯罪。同時に幸せも、じわじわと・・・

-Fさん、いい顔してろくろ回してるもんね。出たらどんな仕事したいと思う?
  「・・・」
  「ボーリング。まず杭を打ち込んで、深く掘っていくんです」・・・Gさんが答えます。
-ボーリング?
  「井戸掘りだよ。」・・・Gさんの後ろに座っていたHさんが教えてくれます。
-ボーリングって聞いてスポーツのボウリングを想像してしまいました。

-他には?どんな仕事したい?
  「考えてない・・・まだ出るのは先だもん」
  「・・・」

-考えようよ。自分の夢。食うため、ただ食うために、となると稼ぐ方法はどうするかと考える。そして楽な方へと考えてしまう。

-Jさんは調理の仕事する?
  「やらない」
-そうなんですか。
  「10年やって裏切ってしまったから」・・・Jさんはつぶやくように答えます。すると、すぐさまJさんの隣に座っているEさんが、ここぞとばかりに返答します。

  「いたずら!」・・・受講生から笑い声。そして前列のAさんは後ろを振り向き、Eさんに向かって
  「仕事しないの?」・・・受講生からは、さらに笑い声。

-こうしたいということはない?仕事は生活するためです。この“生活”とは、生きることを活かすと書く。生きてることを活かす。ただ食うだけでなく、いい生活をしてください。いいことを考えていきましょうよ。私は、みんなに会えることが楽しみです。みんなが好きですから。Bさん、出たら(出所したら)、ねこを可愛がってあげてください。


講話を終えて

新年度第1回目、桜が咲いている暖かな日、Bさんが講話を聴く最後の日・・・いろいろなことの重なりがそうさせたのか、今日は受講者たちの自由な空間を体験させていただきました。もちろん講師がその空間を創り出していることは言うまでもありません。

刑務所という場所の中で、この講話の瞬間は異質だと見られるだろうと感じるほどの空気感です。講師は受講生全体に投げかけながら、かつ受講生の傍に近づいて個別に名前を呼んで声をかけていきます。それは、講師の凄味を見せつけられるほどに意図的です。西武ファンのAさん、4月出所のBさん、賭け事の好きなDさん、北陸地方出身のCさん・・・という風に。

そして、今日の“仕事”というテーマも意図的だったのでしょうか。誰のために働くのかという問いかけに、ほとんどの受講生が「自分のため」に働くと答えています。「自分のため」、それだけでは、例えば、頑張っていても、うまくいかないとき、働くことを「自分でやめてしまう」決断をしてしまいやすいのかもしれません。そこには他者という存在がないこととつながりがある。

つまり、“誰か”がいないから諦めてしまう。「生きていることを活かすこと」を諦めてしまうのです。支援者は、その“誰か”になることが求められているのではないかと思います。そして、それは決して目的ではなく、あくまで結果であること。そうでなければ対象者の重荷になってしまうこともありうるからです。

支援のプロセスの中で、「ここまでやってくれる人がいるんだ」と対象者が自然に思えること、それが支援の要ではないか・・・、そんなことを考えさせられる講話です。

例えば、帰住先を考える時、単に食べて寝ることができるだけでなく、帰りたいと思う居場所を見つけること、ここで暮らしていきたいと思えること・・・、そんなひとつひとつの営みが対象者に伝わり、支援者はやがて、“大切な他者”になりえるのだと思います。こうして、「ここまでやってきて間違ってなかった」という感覚が両者に浸み込んでいくのだという講師のメッセージを受けとります。
 

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(14)

2015年2月23日府中刑務所 社会福祉講話

11名が受講されています。年齢は30歳代から60歳代まで様々。IQ相当値は70以下、4名が療育手帳をお持ちです。

いつものように講師が11名の入室を迎え、いつものように講師が問いかけて始まります。
メジロ
-この鳥は何?-
「うぐいす」
-うぐいす・・・うぐいすに似ているねー
「メジロ」
-そう、メジロ。目の周りが白いから。梅にメジロ-
・・・似ているけれど、うぐいすではなくメジロだと講師の語りかけで、いつもの雰囲気がつくられていきます。


東京マラソン
-東京マラソンがありました。府中が折り返し地点―
-マラソンって何キロかわかる?-
「42、・・・」
-42.195㎞-
-運動会があったよね。皆、運動会で走った?何キロ走ったの?-
「・・・」


2月22日・2月23日
-2月22日は何の日?-
「夫婦の日」「にゃんこ」「に(2)に(2)に(2)」・・・受講者からの返答が続きます。


竹島 
-これは竹島。2月22日は竹島の日です-
-他には・・・“ニンニンニン”と読めるでしょう-
「ハットリくん」「忍者」

忍者
-そう。それで忍者の日だそうです-
「へえ~」・・・これには感心したのかあちこちから反応があがります。


ねこ 
・・・スライドを見せるや否や反応があがります。
「にゃんこ」「・・・」
・・・受講者は次々と出てくるネコのスライドを見ています。
-Aさんは猫を見ているとき、ほんといい顔するよね-
・・・Aさんは笑みを浮かべて頷きます。

-今日は2月23日。何の日?-
「・・・」・・・皆さん黙って考えています。
-浩宮皇太子殿下の誕生日です-
-それと語呂合わせで“ふ(2)じ(2)さん(3)”の日-


富士山 
-こんな風に、今日は“○○の日”っていうのがある-
-皆にとっての記念日は?-
「誕生日くらいしかないよ」
-他には?-
「満期の日」・・・何人かが頷きます。
-満期の日か・・・毎日考える?-
・・・講師は問いかけたまま次に進みます。


再犯
-今日はまず、再犯ついてお話したいと思います-
-私の知っている方で40回という方がいました-
「40回!すごいベテランだね」
「6回」「8回」「4回」「俺はまだ3回。みんなすごいなあ」「俺、3回目、デビュー遅い、63歳」

-どうして繰り返してしまうんだろう?-
「・・・」・・・受講者一人ひとり、黙って考えて始めます。
-もう(刑務所には)戻って来ないと思っていても、いつの間にか戻ってしまっている現実-
「・・・」

-なぜ?-
・・・講師はゆっくりと問いかけます。
-生きていくためのお金がない、寝る場所もない、どうしようもない、警察に捕まる方が安心だと考える-
-刑務所出る時、作業報奨金(出所後の社会復帰のための資金となる)をもらうよね-
「もらった」「俺、10万あったけど、親が使った」「お菓子食ったりして、お金残らない」
・・・一人ひとりの返答に耳を傾けながら、ここでもまた語りかけて次に進みます。


保護・支援
-次は、『保護・支援』という言葉-
-支援をうけたことはありますか?-
「ないね」・・・多くの参加者が頷きます。
次の瞬間、「はい」と手を挙げる人
-どんな支援を受けたの?-
「保護会で食べるところと寝るところ(を支えてもらった)」
-では皆さんに質問。“支”がつく言葉で他に何がある?-

支
「枝」「支給」・・・なかなか返答が続きません。
-支店という言葉もあるねー
-こうして見ると、本体があって、そこからそれぞれにつながっているよねー
-同じように、自分がいて、その周りとつながっている-
・・・ホワイトボードを見つめ続ける受講者たちにもう一度問いかけます。

-支えられたことはありますか?-
・・・受講者が思い思いに振り返っているかのように沈黙が続きます。
-自分ひとりでは大変だということ-
-お金がない、どこに相談していいのかわからない-
-住むところ、働くところ。どちらもお金が必要-
-お金をもらって出所するけど、足りない。ここを出るとき、5万円持っている人は少ない。5万で部屋は借りられない。出所日が土日なら、役所はお休み。正月だったらどうする?寒いし、役所は休みだし、冬服もない-

-どうにでもなれって思うことは?-
・・・しばらくして前列の方からの発言があります。
「どうにでもなれって思う。まあ病気みたいなもんだ。今になってわかるんだけどね」
「60(歳)過ぎて捕まった。女房と別れて・・・どうにでもなれって」
「どうにでもなれって言うのは、わかる、あるよね、男は弱いね」
・・・ここで講師は、地域生活定着支援センターが支えてくれることを説明します。
-センターの職員との面接をすることになるかもしれません。その時は、かっこつけず素直に話してください-


ガンジー 
-この人、誰か知ってる?-
「ガンジー」
-何をした人?-
「・・・」・・・受講者から返答はありません。
-何人?-
「インド!」
・・・Bさんが返答します。Bさんから発信したのはこれが初めて。そして講師はガンジーの名言を挙げていきます。


非暴力・非服従 
-非暴力・非服従-
-どういうこと?-
-武器をもたないということ-
-貧しい生活がずっと続くのは嫌だ。でも武器をもって戦いたくない-
-力でねじ伏せないということー
-これは大事なことだよねー
-みんなが力を使いませんということになったら平等になる-

・・・講師はここでもう一度、先ほどと同様の問いかけをします。
-罪を繰り返す中で、何で自分がこんな目に合わなければならないと思ったことはある?-
「自分が弱いから。もっと強く持てば悪いことをしない」
-強く?ひとりでは大変なこと- 
「支える人がいないとだめだね」「仲間がいないと」・・・講師がこれまで語りかけてきたことが生きている返答が出ます。
-ひとりぼっちで強くいるのは難しい。支えてくれる人がいないと難しいよね-

罪を憎みなさい・罪人を愛しなさい

握り拳とは握手はできない
・・・講師は握り拳を受講者の一人の手に近づけます。
-握り拳では握手はできないよね。こうやって手を開いて握手が出来る-
-心を開かないと、信頼していないと、駄目だよね-
-社会の中で生きていくこと。お金がないことよりも大きいことは人間関係を結ぶこと。これが大変。人間関係をつくることが難しい。今後、支援する人が目の前に現れるから、それはチャンスです、自分の気持ちを素直に言って、その人とうまく付き合ってください-

善いことはカタツムリと同じ速度で動く
-諦めて、“もういいや”と言うまでの期間が短いんだよね。
だから1か月、また次の1か月・・・と諦めるまでの期間を長くする。
失敗したときに居てくれる人がいるから・・・。
この講話を聴いた人で、その前に18回入った人がいました。この人は出所してから2年たっている、シャバでの最長記録。彼は、今、グループホームで落ち着いてやってます-


講師の問いかけは、受講者一人ひとりに、これまでの自分を思い出させていたように感じます。「なぜ?」という問いかけに、「なぜだろう?」と振り返る・・・。

受講者Aさんは講話の前半で、講師の問いかけに返答した後、それまで積極的に発言していたのですが、ぱったりと発言はなくなり、最後まで黙っていました。その間、講師の話を聞きながらAさんは何を思い、何を考え、そこに着席していたのでしょうか・・・。そして、終わりに近づいたところで講師はAさんの名前を呼んで問いかけるのです。講師はAさんの様子を観ながら、“今ここで”というタイミングで声をかける。Aさんの懐に入った瞬間をみたような気がします。

講話は月2回のペースで続いています。講師は講話を続けるなかで受講生一人ひとりの変化に敏感に反応し、それを自然体で返します。
講師のメッセージはシンプル。講師の言葉を受講者なりに咀嚼しているのだとはっとさせられます。

諦めてしまってきた人たち・・・実は、ほんの少し傾いているだけで、それをほんの少し支えるだけで暮らしをつくっていくことができるのかもしれません。

次回の講話参観は、4月半ばの予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(13)

府中刑務所 福祉講話 26年10月20日(月)

受講生のプロフィール

講話に参加したのは、30代2名、50代6名、60代3名、70代1名の合計12名です。療育手帳を持つ人は5名、疾病のある人は5名で、その他、視力が極度に悪い人が1名新たに加わりました。今回の講義を最後に、出所する人や、最長で平成29年夏に出所する人がいます。


ウォーミングアップ

季節は、スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋ということで、色々な季節の画像が、次々とパソコンに映し出され、講師は、それぞれのテーマについて、みんなの意見や想いを聞いていきます。

時事の話題でも、10月20日現在で話題となっていた、阪神の4連勝、ある政治家の政治資金にまつわる事件、ノーベル賞を受賞した三名の日本人の科学者たちのニュース、ノーベル平和賞を受賞したマララさんの話題と、講師は次々に、みんなの意見を聞いていきます。

マララ

特にマララさんについては、パソコンに映った彼女の写真を見て、名前をパッと出した受講生がいました。新聞をチェックしていると彼は言います。

「マララさんが、なぜ平和賞をとったか、みんな知ってますか?」と講師は言いながら、人差し指を出している画像と彼女のスピーチを見せます。


''一人の子ども、
一人の教師、
一冊の本、
一本のペン
それで世界は変えられる''


Q:
「これは、どういう意味ですか?」

A:
「おれ、字はだめ、書けない、読めない」
「未熟児で生まれて、3年遅れで小学校に入った。10歳で入学式」
「知恵遅れ」
「勉強しなかった」
「女のケツ、追っかけた」
「義務教育だから、行くことは行ったけど、ただ行っただけ。でもオール1、やや遅れていると言われた」
「学校行かないで、山へ行った」


教育は誰のために?何のために?

Q:
「教育は誰のためにあると思う?何のために勉強しなければならないと思う?」
A:
「自分のため」
「外に出てから役立つため」
「生活のためにあったほうがいいな」

Q「○○さん、生きるために努力はしてきたよね?」
A「してきたよ、だからこんなになっちゃたよ」

「マララさんも言ってます。女性を排除したら、社会は成り立たない。がんばっても出来ない人を排除したら?」


福祉

「この講話は、これ(※福祉)です。」
Q
「じゃあ、福祉は何のためにある?」
A
「生活保護」
「歳とって働けなくなった時にもらうため」
「いじめられたから」
「仕事でモタモタすんなよと言われた。したくてしてるんじゃない、できないんだよ、わかんないし」

Q
「社会の中で、平等に扱われるのが、福祉です。でも福祉は、身近なものではないと感じる。どうして?福祉事務所に相談、行ったことある?」
A
「ない、気軽に行ける所じゃないよ」
「行っても、上手く伝えられない」

「まずは、相談する場所を知っているか?次に、そこで悩みを伝えられるか?そういう事ですね。」


「では、今日はみんなに質問は二つ。
 出所後、したいことは何ですか?
 将来(10年後)、どんな生活をしていたいですか?」


出所後にしたい事:

  1. 仕事を探したい・仕事をしたい
  2. たばこと缶コーヒー買って一服したい
  3. スポーツ新聞を見る
  4. 酒も飲みたい
  5. いろいろチャレンジしたい
  6. 墓場に行きたい(※高齢の方の回答)
  7. 家族を幸せにすることを誓う、何って言ったって、もう二度とやくざの世界に足を入れることとなくしていく。
  8. ××市に帰って、福祉施設を探してもらい、そこに住んで、そこで働きたい。あとはバイクを買ってまた乗りたい。免許を取りたい。
  9. お母さんと福祉団体の人たちと一緒に、落ち着いて悪い事をしないで、お母さんの言う事を聞いて、警察に捕まることはしない。
  10. 親方の所に挨拶に行く


    将来していたい生活:
  1. たくさんの友達をつくって、旅行や釣りなどをしていたい
  2. 結婚して楽しい生活をしていたい
  3. 私はもう80歳になるので、年寄りな所(※老人ホームのことか)におるかな・・・?
  4. わからない
  5. 人に役立ちたい
  6. 16歳で自立している自分にとっては、家族がいるから、幸せにして、真面目に生きるということです。やくざを辞めるということを前提にして、これからの自分の自覚を持ちつつ、人生を大事にして生活するということであります。
  7. (また来ます)
  8. 福祉施設でみんなと仲良くして働いたり、遊んだりする。また、ケアホームがあったら、そこに入りたい。
  9. 普通の生活をやっています。
  10. 仕事をして映画を見て楽しく暮らしたいと思っています。
  11. 鉄骨トビをやっています。
  12. 別にありません。
    ※本人が特定できないように改変してあります。


講話を終えて

ノーベル平和賞をとったマララさんの「一人の子ども、一人の教師、一冊の本、一本のペン それで世界は変えられる」という言葉は、正にこの受講生・受刑者の子ども時代の状況には響くところが大きいのではないでしょうか。

多少の学習障害があっても、刑務所の世話にならなくて済む少年少女や成人の方が多いとしたら、その違いを生むのは何ですか。子ども時代に、誰かが親身になって手を差し伸べていたら、違う人生を歩んできたのではないかと言うのは空虚ですか。

成人して罪を犯し、刑務所に行ったが、出所前から福祉の支援を受けて、もう刑務所に戻らなくてもいい人たちの方が、福祉を受けても刑務所に戻る人たちよりも圧倒的に多いのは事実です。

現在集計中の、平成26年度厚生労働省社会福祉推進事業の一つである、全国地域生活定着支援センター協議会(全定協)の再入所アンケート実態調査では、全国47センター中45センターが回答しており、その結果からもこの事実が裏付けされています。

この調査結果では、全センターが設置された当初(最初の設置は平成21年)から平成25年度末までに、45センターが、矯正施設を退所する前から、あるいは、退所した後などで支援した対象者の数は、4493人います(コーディネート業務と相談支援業務のみ)。

この人たちは、本人が福祉の支援を拒否したり、失踪しない限り、定着支援センターが社会内の資源をつかって福祉につないでいます。

この4493人のうち、再逮捕され、そのうち刑務所に戻ってしまったのは、266名だったので、過去5年間に、合計4227人(94.1%)が福祉で救われていることになります。

この府中刑務所の福祉講話を受けた人たちも、この4227人の中に入っているとしたら、どうですか。日本全国の刑務所でもぜひ取り入れて欲しいです。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(12)

府中刑務所 福祉講話 26年7月7日(月)

受講生のプロフィール

今日の受講生は合計11名、20代1名、30代1名、40代2名、50代4名、60代3名です。このうち療育手帳保持者は3名、疾病があるものは6名、残りは知的障害など障害の疑いがある人たちです。刑期終了が最短で今年の秋、最長で2年後。


ウォーミングアップ

今日の講話は七夕の思い出から始まりました。「ろうそくをもらった」「平塚の七夕祭り」「金、ないからね」

「大の男に、七夕の思い出、聞いても ― 今の話題と言えば、やっぱり?」
「サッカー!」と最年少の20代の受講生が答えます。

パソコンの画面には、準決勝戦のトーナメント表がでて、みんながそれぞれ、意見を出しています。

「日本は弱すぎた、レベルが違い過ぎです」「ドイツが勝つ」「ブラジルが勝つ」「オランダでしょ」「アルゼンチン、メッシがいるから」

ネイマール

「腰椎骨折をしたらしいです」と講師が言い、生徒は「ドイツが優勝する」と予測しました。結果論になりますが、ドイツが優勝と答えた人が一番多かった。結構鋭い分析をしているのです。

今日のテーマ: 守るべきもの

集団的自衛権に関して

安倍総理

「集団的自衛権が閣議決定で決まった。○○さん、前回の講話、憶えてる?集団的自衛権って何だっけ?」「憶えてません」

2週間前の講話でも集団的自衛権の話題が出て、それぞれ、意見を言ったそうです。別の生徒が「戦争でリーダーシップをとれる」

「単純に言えば、外に行くこともあるということだけど、これ、読んでください」

画面に出た、集団的自衛権の要件を、一人の受講生に音読してもらいます。


「わが国に対する武力攻撃が発生した場合、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」


講師は「密接な関係とは?」という問いに答えがでなかったので、「例えばアメリカはそうだよね、日本に米軍があるよね。では中国は?韓国は?何が密接な関係か、説明が入っていないよね」

「生命、自由が根底から覆されるとは、どういうこと?」との問いに「平和」と言う者がいました。

「前回の講話で、皆に、大切なものは何ですかって聞いたよね。みんなの答え、なんだったっけ?」

「平和」「家族」「自由」「約束を守ること」


憲法9条

「みんなとは今まで、憲法の基本的人権、特に生活保護で、話したよね」

「はい、今度は◇さん、読んでくれる?」と言われ、◇さんは、ほぼ完璧に音読しました。

「みんな、憲法9条、どう思う?」と問われ、生徒は、
「正義って何ですか?」
「日本には武器がないのに、どうやって戦うのか?」

講師は、日本の憲法がつくられるまでのいきさつを、手短に話し、スイスの永世中立国との違いや、従来の日本の戦争放棄への見解、安部総理の憲法解釈の変更、これからの国会での動きなどを簡単に説明します。


ニュースからの話題

野々村兵庫県議号泣都議会議員のセクハラ発言謝罪

「はい、これは皆テレビ見ないから知らないかな」

これらの状況に至るまでのいきさつを話し、手にする報酬に見合わない行いをしている議員がいることなど例を挙げながら説明します。が、反応が少ないので、次の画像へ


差別


「差別」という文字が画面に大きく出ると、自分はいじめられた事があるとはっきり答えた生徒がいました。

講師は、差別には、いろいろなやりかたがあるが、結局、差別とは、「人を傷つける行為であり、弱い者がやられる」ということ、そして、二人、三人、集団と数が増えていく中で、人がいじめに加担していく心理的な状況、最後に行き着く自分のすさんでいく心を語ります。


Say No to Racismshaking hands

「このマークは、白い手と黒い手が握手してます。例えばフランスのチームには黒人がいる。移民がいますね」(実際に講師が出した画像はこれではなく、サッカー関連のロゴですが、手に入らなかったので代替物です。)

「日本は、彼ら(移民)にとって難しい。例えば大相撲。モンゴル出身の横綱は3人いるけど、親方になるには日本人にならないといけないとか、ですね」


ここにバナナ食べてる選手達

この画像ですが、こうやって有名な選手たちがバナナを食べて人種差別に反対する運動へのいきさつを講師が話します。熱心に聞く者もいれば、うつむいたままの人もいます。


最後に

最後に「守るべきもの」という大きな文字が画面に出て、講師が「みんなにとってそれは何ですか?」と聞くと、

この問いに、生徒から真っ先に挙がったのは「平和」、そして「約束」「家族」「自分」「自由」。

「では、今日が最後の○○さん、出所の挨拶をお願いします、前に出てきてね」

「社会に出たら、相手の立場になって考え、行動し、弱いものを助け、守るべきものを守り、日本が平和になったらいいです」とにこにこしながら発表しました。

「はい、あっさりまとめてくれました(笑)。

自分一人は弱い、それを知って活動していってください」

講話を終えて

この講話のすばらしい所は、何と言っても、前向きで、建設的で、話題が広がっていくところと、一方通行ではなく、講師と受講生が何かを共に創る時間になっていること、そして話題によって変化する受講生それぞれの反応です。

この講話は福祉の分野をカバーしていますが、単なる情報提供ではありません。社会復帰に向けた準備として、受刑者に考える機会と、自分の意見を自由に表現できる機会が、入所中に提供されています。福祉の情報と共に、このような経験は、出所してから社会で生きていく上できっと役立つのではないか。

さらにプログラムを通じて個々の受刑者の特徴も観察できるので、再犯防止とも関連付けて帰住地調整の上でも参考にもなるのではないか。現に、毎回講話を終えて、限られた時間内ではあるが、講師と教官は、応接室で受刑者一人一人について話し合っています。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(11)

府中刑務所 福祉講話 26年5月12日(月)

受講生のプロフィール

今日の講話は、受講生12名のうち、1名欠席。年齢は30代から60代、手帳所持者は1名だけです(療育手帳)。残りの人たちは、手帳はないが、知的障害の疑いや、ヘルニア、高血圧、狭心症などの疾病があります。出所時期は、最短の人でこの5月、最長で3年後。


はじめに

府中刑務所での福祉講話は、3年目を迎え、講話第1回目からの受講生は全員、既に出所しました。もともとは、福祉についての話だったが、と笑いながら、受講生の反応を見つつ、バラエティに富んだ話題が盛り込まれていったと、講師が話します。


時事の話題

野球、ツバメ、韓国船沈没事故と、いつものように話題が足早に進みます。

ダルビッシュ

「この選手、知ってますか? 9回ツーアウト、あと一人というところで、だめだった、去年もそうだったね」

r,広島カープ

「赤いユニフォームの広島カープ、今一番勝っている。カープって何だか知ってる?鯉ですね。広島って聞くと?」

「原爆、落とされた所」

「そうです。広島市民が広島市民球場をつくりました。」

広島東洋カープの本拠地として親しまれ、被爆地復興のシンボルだった旧広島市民球場、赤いユニフォームになってから初優勝をしたこと等の話を聞いたのは、皆、初めてだったにちがいない。

「ヤクルト・スワローズというチームもある。スワローズって、ツバメです。去年の今頃もツバメの巣作りの話をしました。ツバメは毎年5月ごろ同じ場所に巣作りします。」と言いながら、ホワイトボードに絵を描き、

ツバメ

「なぜ、こんなギリギリで狭い所に作るか?」

「蛇に食べられない」

「そう、蛇は上ってこれないし、カラスにも食べられないため。誰にも教えられないのに。」

韓国船沈没事故

「犠牲者は300人にもなりました。人災です、荷物の載せすぎでした。韓国のKBS報道局長が言ったそうです、

―300人、交通事故と比べたら大した数ではない―

家族を亡くし、こんなこと言われたら、みんな、どう思う?」

「怒ります」


今日のテーマ:福祉

「福祉って、みんな、どんなイメージがある?」

「おれは、市役所行った、生活保護もらったけど、トンズラしちゃった」
「おれ、生活保護もらったことある」
「うちに来てくれた、施設を紹介してくれた。2週間働いた。でも、自分のこと、わかってもらえなくて、やめてくれと言われた。」
「(市役所)行ったことないから、わからない」
「おれもない」
「福祉センターに工作を飾られた」

と、いろいろな意見が出ます。

「福祉、わからないよね、普通の人もみんなよくわかっていない」

福祉とは

「人間の幸せという意味だね、だから、トンズラするもんじゃない」

「でもおれは、何回もトンズラしてるから、同じところはだめだね・・」

「いろんな人がいる、同じところに何回も行く人もいる。この中で、生活保護受けたことのある人は?」

と聞かれ、3名が手を挙げています。

「日本に生活保護受けている人、何人くらいいると思う?」

「(日本人の)半分」
「10万人」
「200万人」

「すごいね、○○○さん、その通り、約200万人、どんどん増えてる」

何人?

「では、手帳持ってる人は何人いると思う?」

「100万」
「50万」
「300万」
「500万」

「では、認知症って何?」

「ボケと同じじゃないの」

「刑務所の中にも結構いるでしょ?」

「いるんじゃねーの」
「うつとは違うでしょ?」

「じゃあ、認知症は何人いると思う?」

「1万」
「5万」

「800万人。そのうち、年間1万人が行方不明になっている。自宅から2~3キロでも、わからない、家族がいなければ、だれも気付いてくれない」
社会福祉

「これ、どういうことを思い浮かべる?日常生活が苦しい人のためのものです」

「安倍総理がなんか言ってたけど・・」と誰かが言います。

憲法25-2

「どういう意味?」

「むずかしい・・」
「生活保護申請して、もらえた」

「はい、それは、なぜですか?
ないと、生きていけない、行くところがない、
でもトンズラしちゃった、
人間、食って寝るだけじゃなくて、仕事したいよね、
でも飯も食えないで、仕事探せって言われても無理だよね

皆さんには、権利がある、
健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある。」

知好楽

「はい、これ、どっかのラーメン屋じゃないよ」

孔子

「子は、孔子、論語ですね」と言いながら、その意味を野球でたとえて説明します。

「みんなの中にも、今までもあったと思う、
生きる上での張り合いになる何かが。

私は、10年前に刑務所を知りました。そしてみんなを好きになりました。そしてこの時間を楽しんでいます。

みんながこうやって、うなずきながら聞いてくれること、冗談を言ってくれることが、楽しみです。

楽しみだったことが、苦しみになることもある。でも目をそらさずに、突き進む。

さて、今日は、◇さん、最後ですね(出所していくので)。
あいさつ、どう?」

「二度と来ないようにしたいです。地元に戻って、生活を始めます。」小声で、ぼそっと言った◇さんへ、みんなが拍手を送りました。


講話を終えて

赤平講師の福祉講話は、3年目で、そのうちの1年間、2か月に1回程度ですが、参観させていただいています。

講師の、スピード感のある非常に面白い、話の展開の仕方に対して、知的障がいのある受講生が、様々な反応をすること、理解力がすぐれた者たちの間での、互いに駆け引きをするような発言と、それを中和させていく講師、さらに、彼らが一つの狭い空間に集まって、それぞれの、つらかったであろう人生を、そのまま受け入れているかのようなオーラを放ちつつ、でも出所したらこうしたい、ああしたい、と彼らの間で希望が生まれ出ること、それらを自由に語っても、だれにもジャッジされないで済むこと、誰も教えてくれなかった福祉の活用を、目の前で個人的に教えてもらえること等々、その他、その場でアドリブ的に起こるすべてが、この講話の魅力です。

このような社会復帰プログラムが全国に広まるとしても、講師選定に心してあたらないと、彼らにとっては、苦痛の一時間になってしまうでしょう。

「人間、食って寝るだけじゃなくて、仕事したいよね」
「生きる上での張り合いになる、何か」
「楽しみだったことが、苦しみになることもある。それでも・・」

私は、スウェーデン第3の都市、マルメ市内にいくつか点在する、移民集住地区の一つである、ローゼンゴードに、数年前、2年間住んでいたことがあります。マルメ市の人口の半分以上は、移民・難民が占めますが、生粋のスウェーデン人や、経済的自立を果たした移民の住む地区と、生活保護で生きる移民・難民の住む場所は分離されています。

rozengard malmo

身体や知的、精神の障害があるとか、高齢など、明らかに支援が必要な移民・難民もいますが、心身ともに何の問題もなく、スウェーデン語もある程度習得した人たちが、手厚い福祉で支えられ、起きてから寝るまで、手持無沙汰で毎日を送っているばかりか、鬱憤のたまった若者たちが団地内で暴動を繰り返すのを見てきました。

riot rozengard3 

衣食住に困らないことは最低限ですが、それだけではだめなんです、本当に赤平講師の言われる通り、生きる上での張り合い、大人なら、仕事が必要なのではないでしょうか。福祉講話の受講生たちが、出所したら、仕事をしたいと口々に言っていたのを思い出します。彼らは、出所後、何に、生きる張り合いを見つけるでしょうか。

次回の講話参観は、7月です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(10)

府中刑務所 福祉講話 26年3月3日(月)

受講生のプロフィール

今日の講話は、受講生16名のうち、11名が出席。5名は、懲罰か体調不良のため欠席です。年齢は30代から60代、障害者手帳のある人が2名、ない人は9名。手帳はないが、疾病や後遺症がある人は、4名。出所時期は、今月の人が数名、最長で3年後。


季節の話題

「3月3日は何の日?」と聞かれても、反応は鈍いので、「女の姉妹いる人?ひな人形飾った?おいしい料理、作ってもらった?」。と質問を浴びせますが、それでも、会話が停滞しています。

浅田真央選手

スクリーンには、浅田真央選手がソチオリンピックのフリーで6位になった時のうれし泣きの顔写真。

「日本人は期待かけ過ぎて」
「本人もプレッシャーが」
「日本は他の国と比べて騒ぎ過ぎ」と意見が出ます。


クイズ

「はい、これ、何だと思う?」

犬・・・・・・・3週間
ねこ・・・・・・2週間
馬・・・・・・・30分
人・・・・・・・1年

長い沈黙の後、誰かが、

「歩けるようになるまでの時間」
「その通りです!!」


「じゃあ、これは?」

犬・・・・・・・1年
ねこ・・・・・・1年
馬・・・・・・・1年
人・・・・・・・20年

誰かが、「人は、1年に一つ年をとる」
「そう、大人になれるまでの年月ですね」
「みんな、自分が大人になったと感じたのは、いつくらいかな?」

「20になった時」
「学校卒業して、働き始めた時、15で働き始めた」
「人それぞれ、大人になったと感じる瞬間がありますね。では、どういう人を大人と呼ぶ?」

「年をとれば、大人になる」
「女性の場合は、メンスがあれば」(非常に照れながら、回りを気にして遠慮がちに発言)

「でも男性だって、小学生で夢精する人もいる。でも世の中は、大人と認めないよね。
草食動物は、早く立ち上がらないとライオンとかに食われてしまうから、早く立つ。
犬猫は15年くらい生きると言います。馬は25年、人は80年。
今までの人生、みんな、どうでしたか?長かった?短かった?」

「速かった」
「あっという間にきちゃった」
「・・・犬に生まれてきたら、いい飼い主に拾われたい」
「大人になるまで、1年しか無かったら、好きな事やる」


今日のテーマ:守りたい人

「3月11日は何の日?」

「大地震の日」
「おれは娑婆にいた」
「x刑務所にいた、ひどく揺れたけど、津波は来なかった」

講師は、東日本大震災が起きた後、津波が来る前の約30分間前後、人々がどのような軌跡をたどったか、ホワイトボードに絵を描きながら、科学者たちが衛星画像で解析中だと説明します。

「なぜ、戻ってきたと思う?」誰も口を開かないので、「地震は何時に起きた?」

「2時46分」
「よく憶えてるね」
「その時、Q刑務所のプログラムで、阪神淡路大震災のビデオを見ていて、その時に起きた」

「この時間は、みんなそれぞれ、違う場所にいた。だから・・・」
「助ける為に戻った」
「その通り、家族や、他の人の安否を確かめに、助ける為に戻った。亡くなった3万人のうちの何割かは、この戻った人たちでした。弱者と言われる人たちが、命を落としました。愛する人、助ける人がいる、皆一人で生きていない」

「みんな、(刑務所)出たら、一人でやっていく?」
「誰もいないです」
「一人でやっていくしかない」

「でも、○さん、一人じゃないでしょ?会いに来た人、いるよね?」

「出所したら、誰に会いに行きたい?」
「兄弟です」

「▽さんだったら、助けに戻る?」
「・・・行くと思う」


“卒業”にあたり

「人間は、社会をつくって生きている、寿命も長くなった。
今日の講話が最後になる人たちに、一言ずつ、いいですか?
じゃあ、◇さんから」

「取り調べでも、ケンカにならず、ここまで来れたのも、みんなのお陰、お世話になりました。出たら、自転車を買って・・・東京は9500円、安い所まで歩いて行って、5000円で買う。そして▼▲へ行く。どうもありがとうございました。」

(▽さんの挨拶)「出たら、定着の人が迎えに来てくれるって言ったから、それに乗って○○市の市役所へ行く。その後、仕事する」

「二人ともご苦労様でした。元気でいてください」
二人は、頭を深く下げて「どうもありがとうございました、お世話になりました」

「人生は長い。成熟するのに時間がかかります。もうすぐ春らしくなるし、とにかく健康で、元気でやってください」

桜並木



講話を終えて

この講話に参加できる人たちは、知的などの障害のある人か、その疑いがある人たちで、自分で参加するかどうか決めるのではなく、出所後の生活を見据えて、福祉が必要だと刑務所が判断した人たちが受けなければなりません。講話に参加する1時間(毎月2回)は、刑務所内作業をしていれば、わずかではあるが得られる工賃を失うことになり、それを望まない人もいるらしい。また、理解する能力が付いて行かない人もいるかもしれない。

それでも、この講話は、この人たちだけに与えられたスペシャルな時間であることに変わりはなく、特権とも言えると思います(授業を受けたほうがいい人すべてが受けられたらいい)。あんなふうに、この講師のような、自分たちよりずっと上の立場にある人が、自分たちと同じ目線で、何かについて、真摯な態度で、コミュニケーションを取ろうとしてくれたことは、私たちが経験しているほど、彼らにはそんなに頻繁にはなかったのではないか。

高校進学率が全国平均98%を超える日本で、小中学校もろくに行かなかったり、義務教育どまりで働き始めた彼ら。おそらく、障害のために、いじめや嫌がらせにもあったことだろう。刑務所に来て初めて、刑務官たちに受刑者として平等に扱われるというのは、皮肉な話です。でも、この講師のような人から、毎回違う色々な話を聞けて、自分の意見も自由に言わせてもらえる。さらに、出所したその日から、定着支援センターに関わってもらえる。例え、もう50、60年生きて来てしまったとしても、まだ、時間がある。これから幸せになってほしいです。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(9)

府中刑務所 福祉講話 26年1月20日(月)

受講生のプロフィール

今日の講話は、受講生16名のうち、1名は満期前指導で、もう一人は腸の不調で欠席。また、新しい受講生が1名加わり、計15名です。年齢は30代から60代、療育手帳所持者5名、身体と精神の手帳所持者各1名です。残りの大部分の人たちは、手帳はないが、疾病や後遺症があります。出所時期は、最短の人で来月、最長で3年後。


時事の話題

パソコンに写真や文字が映し出されて、話題がポンポン進みます。
逆さ富士
時候の話では逆さ富士、ニュースでは1月15日に発生した海上自衛隊輸送艦「おおすみ」と釣り船の衝突事故、1月17日で19年になる阪神淡路大震災、そしてオウム真理教テロ事件から19年。それぞれ説明を加えながら、講師は皆に次々と質問を投げかけます。

「阪神淡路大震災のとき、○○さんは、どこにいた?」
「刑務所です、▲の」「10分くらい大きく揺れた」

「地下鉄サリン事件の起こった日の事、憶えてる?」
「その日、おれ、同じ電車に乗ってた、途中で降りた」

「平田信被告の裁判、裁判員裁判って、みんな知ってる?裁判がスピーディーになるらしい」


心が壊れる

「例えばサリン事件では、後遺症で亡くなった方、生きる気力をなくした方、家族を亡くした方、心が壊れてしまった方、そういう方々が沢山います」

「心が壊れるってどういうことかわかりますか?」と聞かれ、「心の病気」と答えるものもいます。

taxi.driver leon

「前回の講話で、映画の話をしたね、◇さんは、“タクシードライバー”が好きだって、○さんは、“レオン”が好きだって言ったね」タクシードライバーでは、ロバート・デ・二―ロの役が、睡眠障害があって夜中にタクシーの運転の職に付き、その間に13歳の売春少女に出会い・・・と、その後の展開を講師が話します。レオンが好きだった○さんには、講師が助けながら映画のあらすじを言ってもらいます。「これらの映画に出てくる登場人物たちも、様々な悲惨な体験を通して心が壊れていってしまいます。」


今日のテーマ:人生と山登り

「人生はよく山登りにたとえられますね、みんな、山登りしたことある?」富士山に登った事のあるという、二人が手を挙げます。

「山登りで大切な事って何だと思う?」

「自分の命を守る事」
「ルールを守る事」

「うん、無事に下山する事、無事に家に帰る事だね」

富士山

そう言いながら、ホワイトボードに富士山の絵を書きます。

「日本人の平均寿命は、男が大体80歳だから、この頂上は40歳として、○さんは、35だからこの辺。△さんは、54だからこの辺かな。」「◇さんは、例えばもし、余命あと10年って言われたら、何する?」

「おいしいもの、いっぱい食べる」
「好きな事する」

富士山のふもとを指しながら、「刑務所を出てから、このふもとまでどうやってたどり着くか?」

「山、登ったことないからわからない」
「大変だと思う」
「下りるときの方が、難しいのかな」
「ころころ、おっこっちゃう」


「さっきもあったけど、映画は生きる事と、死ぬ事を描いているよね。このテーマから逃れられない。」
「みんな、東京物語っていう映画、知ってる?小津安二郎監督です。ヨーロッパでは、日本映画の中で、東京物語が、今まで一番高い評価を受けたそうです。昭和28年の映画です。」

東京物語

「おれ、22年生まれ」と誰かが言い、講師は映画のあらすじを話します。
「この映画でも、日本人や家族の生きざま、死にざまを描いています。」
「私も、みんなも、いつか死にます。どんな風に死ぬか?後悔して死ぬ?」

「いや、その場になったら、開き直ります」

「みんな、今後の人生、どうやって生きようか、まじまじと考えた事ある?」
「ない」(60代)
「体力の衰えを感じる」(30代)

おもてなし お陰さま
滝川クリスタルの“おもてなし”の画像が出て、そのあと“お陰さま”の文字が出ます。

「日本人の美徳は、こっち、お陰さま、の方ですね。」
「自分一人では生きていけない。再犯するかしないかは、このお陰さまにかかっている」

「間もなく出所する人たち、一人じゃないから。どうやって他の人と接するか。▼さん、今まで、帰住調整のために色んな人と会ったでしょ。お陰さまっていうこと思って、一人じゃないよ。」


講話を終えて

死ぬ日がいつか来ること、それまで、どうやって生きるか、その時、どうやって死にたいか、皆、このようなテーマで、人と話したり、考えたことはあるのでしょうか。考える必要はあったでしょうか。よりかかれる身寄りもなく、福祉に頼ることもできず、他に生きるすべを知らず、窃盗や詐欺をして刑務所に入ってしまったのなら、生きることに一生懸命で、死ぬ事など考える余裕もなかったのではないか。

受講生の半分以上が50を過ぎた人たちですが、生きることを楽しまないうちに、死ぬ時の事を考えるのは、あまりにも悲しい。出所後、定着支援センターを始め、福祉の力で、いい人生が送れるように手助けしてほしいです。でも、講師の言われるように、本人がその手助けを理解して、感謝して、応えることも大事でしょう。もし福祉が出来ることをやっても、再犯で刑務所に逆戻りになるのなら、その原因は別の所にあるでしょう。


それにしても、この福祉講話の参観で、いつも思うのは、受講生たちがみな、実年齢よりもずっと老けて見えるということです。30代の人も、50代の人も、10歳かそれ以上に見えます。

ずっと不思議に思っていたので、今回グーグルで検索したら、2001年の研究論文が一本だけヒットしました。医師向けのジャーナルという事で、この研究の対象は、イギリスの公務員ですが、実年齢より老けて見えた男性は、医学的には、血清コレステロール(血液中のコレステロールの濃度の事)と、ヘモグロビン(赤血球の中にあるタンパク質)の値が高かったという事です。そう言えば、高脂血症の人もいました。長年にわたる食生活の影響ですか?

でも別の所を検索したら、プリズン・トーク・オンラインというイギリスのサイトで、刑務所に家族が入っている人たちのコミュニティがありました。そこには、その人によって、すごく老けて見える人も、逆に若く見える人もいると書き込みがありました。若く見える理由を、その家族は、請求書を払う必要もないし、仕事の心配もしなくていいからでは、と言っています。また、今いる刑務所から、もっと環境のよい刑務所に移された人は、前よりもずっと若返って見えたとも言っています。

次回の講話参観は、3月3日、この日の講話を最後に、出所する受講生が数名います。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(8)

府中刑務所 福祉講話 25年11月18日(月)

はじめに

今日の福祉講話は、新しい受講生1名を迎え、30代4名、40代5名、50代4名、60代3名の全部で16名です。そのうち療育手帳がある人が5名、精神と身体の手帳がある人がそれぞれ1名、16名中11名が疾病、障害(疑い含む)、後遺症があります。出所は、一番早い人で26年初め、一番遅い人で27年半ばくらいです。


ウォーミングアップ

いつもの通り、講師は、紅葉の話や先日亡くなった島倉千代子さんの話から入ります。島倉千代子と言えば、現在、某県で一人暮らしをしているという元受講生/元受刑者の▼▲さんのスピーチを思い出して、講師も触れます。「いくつまで生きたんですか?」と一人が聞き、「肝臓がんだった、新聞読んだ」と別の生徒が加えます。


大切なもの

以前、皆に発表してもらった「大切なもの」リストで、一つだけ出てこないものがあった、これがなくては生きていけないもの、皆に共通するものですよ、と講師が続けると「酒」「世界平和」と答える生徒がいます。


遊

この字がパソコンのスクリーンに出て「遊ぶ、みんな、どうですか」と聞かれるとすぐさま、「余裕がないから」という生徒がいました。先生はそれを流して、「遊び」が付く言葉を生徒に聞きながら、一緒に例を挙げて簡単な説明も加えます。「遊園地、女遊び、夜遊び、山遊び、川遊び、砂遊び、遊説、外遊、遊動円木、三遊亭円楽・・・」


「遊ぶとは楽しむこと、余裕があること、こんな使い方もあるよね」と挙げていきます。「仕事もしないで遊び呆ける、ハンドルに遊びがある、◇さん、▽さんは、車の免許あるでしょ?ハンドルに遊びないと怖くて運転できないよね?」「野球でも、三球三振取れるのにわざわざ近くへ投げて遊ぶ、柔道でも遊ばれてしまったとか言う」


「では、遊びの反対(対語)は何ですか?」と聞かれ、誰かが「働く」と答えます。「いいこと言うね、そう、遊んでないでまじめにやれとか言うね。ただ辞書を見るとちょっと違う、みんなどんな辞書があるか知ってる?」広辞苑、類語辞典、百科事典、英和辞典、四文字熟語辞典、漢和辞典・・・と挙がっていきます。講師は「対語辞典に遊の反対はない、いろんな意味があって幅広いからね」と言ってこの漢字の由来を簡単に描写します。


今日の質問:あなたは何をして遊ぶのが昔、好きでしたか?今、好きですか?

紙と鉛筆が配られると、皆、一気に書き始めました。今回は、長いこと書きやめない人がほとんどです。「先生、趣味も入れていいですか?」「仕事も遊びに入れていいですか?」

となりの人の回答を覗き込んでいる生徒に「覗いたってしょうがないでしょう~」と笑いかけながら、講師が教室を見て回ります。

16人全員が何かしら書きました。講師は授業を続けますが、ここで私が彼らの書いたものを、30代から60代まで若い順に、そのまま紹介します(同じものは一回だけ)。

.............................
かくれんぼ、だるまさんころんだ、雪がっせん、ドッチボール、サッカー、野球、バスケットボール、フルーツバスケット、ゲーム(ファミコン、スーパーファミコン、プレステ)、おにごっこ、ミニ四駆、ビックリマンシール集め、友達の家で遊ぶ、プラモ作り、ガンダム、車など)、BB戦士、テレビ観しょう、モデルガン集め、映画、遊園地、動物園、ゲームボーイ、かげふみ、なわとび

雪合戦

テーマパーク、ギャンブル、風俗、ゲーム、ドライブ、海、山、マンガ、学校の文化祭、秋葉原、キャバクラ、ゲイバー、ぶらぶら、アメ横、道のり駅

カラオケ、酒を飲みに行く、トランプ、ゲームセンター、釣り、カルタ遊び

パチンコ

現金のたまるパチンコ
.............................
遊ぶのは嫌いでした(嫌いです)。(全般的に)←これはZさん

現金がたまる、飲み物、パンなど食べることができる遊びはよろこびと思う。

食べることが好き、テレビを見ることが好き、ねるのが好き、一人でいるのが好き

ボール遊び

ソフトボール、オセロ、スナック、ぴんさろ、ソープランド
...........................................

家にいないで外歩きが好き

たこあげ

昔 ちゃんばらごっこ、こま、おはじき、たこあげ、けん、かんけり、現在は、特にパチンコが好きです。朝開店から2時間が勝負です。使う金額は3000円です。これ以上は使いません。

マージン、はなふだをして遊ぶのが好きでした。

ボリブあそび、みずあそび
............................................

木のぼり、犬と遊んだ

犬と遊ぶ

すぐに頭の中で思い浮かんだことは、私の息子の事でした。息子がまだ幼い頃に遊びに行った場所、それは家族皆で、息子が何よりも大好きだった場所、その場所は動物園を兼ねました。遊園地 東武動物公園なる所でした。私の思い出として一番印象的な遊びの思い出でした。
............................................


遊びは無駄か

この質問に「遊んだほうがいい」「一つの経験」「発散という事もある」「休むこと」「ねることも遊び」と返ってきて、Zさんは「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」を読んだと告げます。

遊び

ホワイトボードにこう書きながら、講師は「休むって自由だね、自分の世界だね」


講師:「自分が楽しむためにはどうしたらいいか。みんな、ラグビーはサッカーから生まれたって知ってる?イギリスの学校のグランドでサッカーをしていた、足は速いが上手くいかないエリス君という少年が急にボールを抱えて走り出した。それがラグビーの始まりだって」

生徒:「創意工夫したんですね」

講師:「そうなんだよ、でも足の速いものだけが有利になっちゃうから、そこでラグビーは、ボールを後ろにしか回せないことにした」

講師:「携帯電話もそうだね、話すだけだったものにいろんな発想が出て、メールやゲームもできる、遊び心だね」「みんなの窯業も、矯正展に出すんで、絵付けにも工夫を入れて楽しくやるでしょ」そこでZさんはきっぱりと「だってやらないと、作業報奨金が。作業はやらなくてはいけない」


「やらなきゃならないと思うと辛いよね、やらなくてはいけなくても、作業しているとき、考えることは自由でしょ、創造することをだれも止めることはできない」。そして「独創性」という文字がスクリーンに出て、「ピカソのように、なぜ独自に創れるのか、考えることは自由だから」と講師。


「でも、社会復帰したら、徹底的に遊べよという意味ではない。頭をからっぽにする休み方を、ということです。楽しんで生きないとね。さっき、キャバクラって書いた人いたね。女性と話をするのが好きなんだね?」それを書いた人らしき生徒がうれしそうにしていると、講師が「人生の中で、大事でない時間はない」と。


遊ぶのは人間だけではなく、餌付けされた猿も猫も遊ぶ。食べ物の心配がないから、安心感が生まれ、遊びが生まれる。ところが野生の猿は違うと講師は話します。


講師:「これから面接する人、○さん、□さん、△さん、皆自由に話してくれると思い白い人たちばかり」「ところで、遊ぶって英語でplay って言うね、音楽もスポーツもplayerって言うでしょ。遊ぶ人だね」

生徒1:「アメリカは大人も遊ぶんですよね?」
生徒2:「アメリカは野球でも遊んでます」
生徒3(Zさん):「感情表現が大袈裟なんですよね」

講師:「向こうから見たら、日本人は何考えているかわからないって言うよ」


生徒2:「なんで(日本は)同じやり方で応援しなければいけないんでしょう?」
生徒1:「それに、(何か人にあげる時)つまらないものですが、って言うし」


講師は、遊びが大事だというのは古今東西同じ、「大切なもの」リストに遊びが入っていなかったので、と言ってくくりました。


心を豊かに
講師が「遊びのあとに残るものが、心を豊かにすれば、ああ、よかったなーと思えれば」と言えば、Zさんは「道のり、過程が楽しいんです」と言う。


講師が「これからは、カチカチな話ばかりではなく、こういう話もしていこうかなと」と言うと、Zさんは「(生徒たちが書いたものを指して)これ読んで、どうするんですか?悪くは使わないんですね?」と言うと、◇さんは「障害者年金の仕組みとか取得の仕方が知りたいです」と言う。その隣の人は「自分はケースワーカーに聞いたりして少し知ってます」と。


Zさんの質問に対して先生は「これを読んで、みんなの事をもっと知りたいからです」と答えます。


障害年金については、来年度の教育プログラムでやると思うと講師が言うと「これ(福祉講話)が変わるんですか?」と誰かが聞く。教育プログラムは別で、社会へ戻るときに必要な基礎知識を増やすために時間枠が増えるのだと講師が説明します。「◇さん、障害年金の話とか分からない人もいるから、それだけって言う訳にはいかないけど、◇さんは(出所まで)まだ時間あるから(あと約1年)、考えときますね」


講話を終えて~遊びと社会格差?

今回の講話は、人生に大切なこととしての「遊び」がテーマで、紛れもなく楽しいそうな雰囲気でした。皆の緊張が緩み、好きな遊びを頭の中で想像するだけでも楽しくなったのではないでしょうか。ただ、皆が書いた遊びのリストを見ていて、やはり遊びにも社会格差が表れるのだろうかとつい思ってしまう。

子どもの頃の遊びは、時代と共に移り変わっていくのだろうが、大人になってからの遊びは、経済的な余裕、時間の余裕、予備知識が必要だったり、幼少から育まれた嗜好に影響されたり、培ってきた文化的素養、物理的・知的なアクセス、地域性などに補強されると詳しい人たちは言います。
キャンピング

米国のある調査によると、貧困層が非貧困層よりもレジャーとして最も時間を割いている唯一の項目は「毎日テレビを5時間以上見る」で、スポーツ、キャンピング、音楽やオペラ鑑賞等全ての項目で貧困層ははるかに下回っていました。米国にパチンコは存在しないらしいので、それは当然なかったですが、もし日本で同じような調査をしたら、貧困層が遊びとして時間を費やす上位はパチンコになるのでしょうか。また文部科学省でも「スポーツ享受の格差問題」として、「裕福な家庭に生まれなければスポーツさえもできない」状況から格差の再生産へと続くと言っています。

スカイダイビング

健康にも社会格差が表れると言われて久しく、これについてはマイケル・マーモットというイギリスの公衆衛生学教授が書いて話題になった「ステータス症候群―社会格差という病」という本。彼は、生活困窮者がそうでない人たちより心血管疾患にかかる・寿命が短いという単純な事ではなく、例えばイギリスの公務員を階級順に並べた場合でも、そこには、寿命や健康にグラデーションがあると言っています。

この学者は、一般的には、階級が上に行けばいくほど、ストレスも多くなり、病気になりやすいのではないかと思われがちだが、18,000人の男性公務員20~64歳を10年以上おった研究(Whitehall Study I)の結果、実際には、その反対で、位が上がれば上がるほど健康状態がよくなることが分かったと言っています。そして、その健康状態は、社会的ポジション、相対的・絶対的剥奪(感)、自己統制(力)や社会的な参加(の度合い)によって影響されると。結論として、国の健康改善のための政策は、社会的環境と健康の関係、そして特に、初期発育段階・若齢期の経験の重要性を考慮しなければならないと言っています。
イルカと泳ぐ

このマーモット教授の研究を受けて、健康の格差に何が影響を与えているかのWHOの研究では、社会的階級、ストレス、幼少期・若年期の経験、仕事、失業状態、社会的サポート、依存症、食べ物、交通手段の10の要因を挙げて調査しています。

興味深いのは、そこに「遊び・レジャー・リクリエーション」が入っていないことだと、今日の講話のあと考えました。なぜは入っていないのか。もし入っていたら、パチンコを楽しむ人と、オペラ鑑賞を楽しむ人とでは、オペラ鑑賞の方が、他の要因も加味すれば、これら一連の研究結果から、きっと健康状態がよいと推測されます。

でももし、それがどんな種類の遊びであれ、その遊びを心から楽しんでいるなら、格差を気にする必要があるのでしょうか。そうなると、やはり、今日、赤平先生の発した言葉「遊ぶことは、休むこと、自由になること」「やらなければならない作業中の身でも、創造することは自由」の意味の深さです。

暖炉

だから、たとえ遊びにも社会格差があって、金や時間や素養がなくて出来ない・知らない遊びはあっても、遊びが自由になることで、創造できるのであるなら、遊びの種類にランク付けはいらないでしょう。赤平先生の講話には、実に考えさせられます。受刑中の受講生は、講話のあとどんなことを考えるのでしょうか。


次回の訪問は、年明けの1月20日の予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(7)

平成25年9月24日、講師 赤平センター長(東京都地域生活定着支援センター)の府中刑務所における「福祉講話」の授業(障がいを持つ受刑者対象)は、釈前教育のため、一番若い20代の受講生が欠席で、新しい生徒2名を含む19名の受講生を前に、始まりました。来月10月初めに出所する特別調整対象者3名にとっては、今日が最後の講話になります。



受講生のプロフィール
今日の受講生は、30代4名、40代7名、50代5名、60代3名で、手帳のある人は19名中5名、知的以外の障がい、または、疾病のある人は14名、出所は一番遅い人で平成28年です。



今日の時事ネタ
裏方さん

巨人優勝胴上げ

「みんな、野球好き?野球に関心のない人、どのくらい、いたっけ?」と講師が手を挙げるそぶりをすると、何人かが手を挙げています。「この背番号206って、試合に出ているの見たことないでしょ?どんな人か知ってる?」打撃投手とか、ブルベンキャッチャーとか、裏方で仕事をする人たちがいると説明します。「試合には出れないけど、この人たちがいないと、だめなんだね」確かに。



やられたら倍返し?
半沢直樹
「これ、知ってる?」と聞かれて、半沢直樹とフルネームで答えた上に、「原本も売れてます」と答える、Zさん。講師は「こういうのが、流行るのが、いいのか、わるいのかわからないね」確かに。



じぇじぇ!

あまちゃん

講師は、NHK連続ドラマのあまちゃんの使う方言について、簡単に説明していますが、受講生には馴染みがないのでしょうか・・・



今でしょ!

今でしょ

この人についても、Zさんは知っていました。



おもてなし

おもてなし

この画像にコメントした人はいないので、講師は「もてなすとは、どういう意味?」と聞き、出所間近の◇◇さんは、「人にやさしくすること、お茶や料理を出したり」と。



今日のテーマ:ほしいもの → 大切なもの → 必要なもの(消去法で) 

「今日は、みんなで考えることをしたいと思います。社会に戻っていくときに必要なことですね」



質問:
Q1. 「まず、欲しいものを思い浮かべて、最低10個、書いてください。思いつくもの何でも、金、車、食べ物、CD、愛とかバンバン書いていってください」

全員に紙と鉛筆が配られると、みんな一斉にカリカリと鉛筆の音を立てて、書きこんでいきます。皆が共通して欲しいものも多々あります。


金、甘いもの、車、家、肉、資格、自由、ゲーム、スマートフォン、友達、彼女、服、お店、仕事、CD、ステレオ、生きていれば父母、カメラ、テレビ、ダイヤ、リング、竹、おいしいもの、時計、DVD、タバコ、アルコール、家族、靴、帽子、財布、車の免許、家を作る材木、一万円・千円・五百円玉の束、寿司、犬、健康、お菓子、空、地球、バイク、トラック、女、心、恋人、マイホーム、子ども、旅行、社長、有名、携帯電話、普通の生活、命、母親からの手紙、老眼鏡、コルセット、痛み止め、ボランティア、悟りの心、等々




Q2.「では次に、この中から、大切なものだけ選んでください。」

講師は、それぞれが書いた欲しいものリストから大切なものだけ選ばせます。皆が発表する意見を聞きながら、講師がホワイトボードに順不同でリストアップしていきます。


金、命、免許、携帯、コルセット、老眼鏡、バイク、家、友達、健康、指輪、帽子、靴、仕事、家族、自由、DVD、女、恋人、田舎暮らし(住環境)、食べ物、心(悟りの心)等々




Q3.「最後に、今選んだ大切なものの中から、必要なものだけ選んでください。生きていくうえでどうしても必要と言えるものは、皆にとってどれですか?」


みんなが、自分たちが選んだ大切なものリストから、今度は必要なものだけ選んで印をつけていき、講師もホワイトボードのリストに、皆の発言に従って必要なものにマルをつけていきます。

みんなが考えて選んでいる間、講師は静かに話します「自分が大切だと思うものを、捨てろと言われるのは辛いよね。人にとって重要でなくても、自分に重要なものはあるよね。」


金、命、家、仕事、友達、自由、食べ物、等




この段階で、ホワイトボードには、マルのついた、いくつかの項目が残りました。「欲しいもの、大切なもの、必要なものに絞っていくことは、人生には、ありますね、これから社会で生きていくためには必要なことです」と伝えます。



一切皆苦

一切皆苦

仏教を独学で勉強しているらしいZさんが音読し、講師が解説します。「人生は苦しいものであると仏教では言いますね。“苦”とは、自分の思い通りにならないということ、それを受け入れること、“苦”を感じないと生きていけないということ」

「じゃあ、“苦”の逆は何ですか?」と聞かれ「喜び、楽」と応えていきます。



ドーパミン
「ギャンブルやスポーツで勝った時、うれしいよね。オリンピックで金メダルとった快感は、一瞬です。永遠には続かない」と講師は言います。

「心に大切だと感じるもの、なくしたくないものを持っていることは、大事です。そういうものを感じながら、社会で生きていってほしい」

先の受講生たちの回答の中にも、ゲームやスウィーツのような、ある人にとってはドーパミンが出そうな物質的なものの他にも、「自由」以外の無形のもの、例えば家族・友達・恋人・異性との人との関係性や、健康・命など、手に触れることのできないものも多く挙がっています。



三人の「卒業」に向けて

米国の一刑務所の卒業式

50代と60代の3人が、来月10月に出所していきます。講師は、「卒業」とよび、彼らに一言ずつ、挨拶をお願いします。

▼▲さんの挨拶
「不安もありますが、一日も早く社会復帰ができるようにがんばります。皆さんも悩みもあると思いますが、がんばってください。赤平先生今までありがとう」

◇◇さんの挨拶
「皆さん、一人ではありません。外に出れば、きっと誰かが手を差し伸べてくれます。ここで学んだことを、社会に出て生かしたいと思います。先生、ありがとうございました」

●○さんの挨拶
「先生ありがとう」

皆さん、とても穏やかで、にこやかで、幸せそうな、本当にいい顔をしています。講師は、ホワイトボードに一度、「将来」と書いて消し、「未来」と書きなおします。「皆さんには、未来があります。これから、皆、まだまだ長く生きます。▽さん、○さん、☆さんも、これから面接に行くからね」



人生を明らめる
法務省「受刑者に対する釈放時アンケート」(平成23年度分)の結果によると、「受刑生活で苦労したと思うこと」の第2位は、「自由がない、好きなことができない」だそうです。赤平先生の生徒たちも、欲しいもの、大切なもの、必要なものが「自由」だと19人中5人が書いています。


同アンケートによると、「釈放後の生活設計で苦労した」が第3位に挙がっていますが、この生徒たちのように、特別調整対象者で、帰る場所がもともとない人たちにとっては、最終的に単身アパートでの生活が出来ないのであれば、ずっと落ち着ける帰住先になるのは、集団生活をしなければならならず、何らかの管理下に置かれる施設になるのでしょうか。


そうなると、獲得できる「自由」の程度は、出所した後にも課題になります。「お金が自由に使えない施設はいやだ」「刑務所より自由が管理されるのはいやだ」「仕事をしてお金を稼ぎたい」「独立して店を持ちたい」「犬を飼いたい」「酒・たばこがほしい」など、彼らの持っている願望のいくつかは、諦めることになるのでしょうか。

dreams come true

あるいは、そうではないと今日の講話は言っているのでしょうか。「一切皆苦」の教えが出ましたが、仏教では「諦める」のではなく、「物事の事情をあきらかにする」つまり、「人生を明らめる」 ことにより、自由になることができると。今日の講話で、みんなは、何を思ったでしょうか。


もうすぐ出所していく三人の、あの幸せそうな顔がずっと続くように、彼らの幸福を祈ります。必要なものだけではなく、彼らにとって本当に大切だと思うものが全て手に入りますように。

次の参観は11月5日(火)または18日(月)の予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(6)

隔週の朝10時から1時間、府中刑務所内の知的障がいのある受講生20名を集めて行われる、赤平センター長(以下、講師)の「社会福祉講和」。平成25年8月12日(月)の参観の報告です。今回は2名欠席です。


受講生のプロフィール

受講生は、20代1名、30代4名、40代7名、50代3名、60代3名の男性で、療育手帳を持つ方は18名中6名、また、皆さん、精神障がい、てんかん、高血圧・糖尿病などの何らかの障がいや疾病があります。出所予定は、一番早い方でこの9月、一番遅くて3年後くらいです(満期出所の場合)。


イントロダクション

酷暑が続くなか、お盆でもあり、「お墓参りに行く人は?」という問いかけから入ります。半分くらいの受講生が手を挙げています。続く講師の質問「28年前の今日、何があったか知ってる?」に、「日航機事故」と答えた人が何人かいました。

猛暑

パワーポイントには、この画面が出て、「暑いね、みんな眠れる?」と聞きます。観測史上初めて24時間30度を下回らない日が続いているよ、と話しながら、作業も無理をせず気をつけてくださいと、講師はいつものように伝えます。受講生のチャコールグレーの作業服の背中は、汗ばみ、塩分でしょうか、白く粉を吹いている若い背中も見えます。


勝負:スポーツの世界

甲子園

スクリーンには、喜び合う甲子園の高校球児の姿が写され、「夏の風物詩になりました、みんなも、出身地の高校を応援するのかな?」と言って、教室を歩きながら一人ひとりの出身地を言って、「○●さんは、どこの高校、応援する?」。首をかしげる人もいるし、有名どころを言う人もいます。

ボルト

次の画面は世界最速の男、ボルトのこのポーズです。「走るの好きな人いる?得意な人は?」と聞かれて、「得意じゃないけど、好きです」と答える人もいます。






戦争

終戦

「これ、何の日か知ってる?」という質問に、長崎原爆投下、広島原爆投下、日本が戦争に負けた日と言う人も、うなずく人もいます。「8月15日正午12:00には、甲子園も中断して黙とうをするんですよ」と伝えます。そして「戦争で家族を亡くした人はいますか?」という問いに、誰を亡くしたか、遺影写真に触れる人もいます。


身近な勝負:かけごと

「勝負」という字が大きくスクリーンに出て、講師の「しょうぶ」のほかに何て読む?に「かちまけ」と誰かが答えます。「スポーツも戦争も、かちまけ、なんでこだわるのかな?」と問いかけ、次に「この中で、ギャンブル好きな人いる?」との問いに、半数くらいが挙手します。あのZさんは、右手の手首をひねりながら、パチンコで「かちまけが、とんとんくらいです」と言い、別の人たちは、負けの方が多いと。

「ギャンブルで大儲けして家を建てた人はいないよね、どうしてやるのかな?」と聞かれ、「次に勝つかも知れないから」「熱くなりすぎるんですね」と、続きます。「勝った方がえらくて、負けた方がえらくないのかな?」に、それは違うと思うと何人か応えます。

正しいか

「これはどう思う?」と聞きながら、「戦争もかちまけですが、それがずっと続くわけではない。みんな、ギャンブルで負けてどうですか?」と講師が言うと、「勝っても負けても関係ない」と受ける人もいます。

講師は、「戦争は相手を徹底的にやっつける、怖いね。原爆も落とす。戦争で一般国民が何百万人も死にました。人の命を軽々しく扱うのが戦争です。人一人を殺すと犯罪者、100万人殺すと英雄。戦争で一番大切な理由は、人の命のためではなく、国のため。」


京浜東北線JR南浦和駅での女性救出

JR南浦和駅

この画像がスクリーンに出て、講師は「何しているところかわかりますか?」と聞きますが、誰も新聞報道を見なかったか、色々な答えが出てきます。講師が説明すると、「その人は助かったんですか?」と聞く人もいて、みんな画像に見入っています。

このニュースが世界でも報道され、日本にしかできないことじゃないかと称賛されたとも講師は伝えました。「3.11の時もそうでしたね、他人の命のために力を合わせることができるのが日本人です」あのZさんは、電車が近づいていた踏切内の女性を助けて亡くなった警察官についても発言します。


今日の質問:「あなたに守りたい人はいますか?」

この質問用紙がみんなに配られ、講師に促されてそれぞれが、紙に鉛筆を走らせます。紙を見つめるだけの人もおり、講師が近寄って、何か聞くと首をかしげているのが見えます。18人中12人が、守りたい人は、自分以外の「家族」「友人」「お世話になった人」「辛い思いをしている人」「悪い道に入りそうな人」だと書きました。残りの受講生は、すぐには思いつかなかったようです。

自重自愛

Zさんが音読し、講師が「これは自分を大切にしなさいということですね、みんな自分を大切にしてますか?」講師に見つめられた○○さんは「はい、出所が近いですし」、別の人は「してない」と。Zさんは「戦争のときはやらないとやられる」と話が戻ります。

他尊

Zさんが読んで、講師は空手(心道流)の理念であるというこの言葉の意味を説明します。そして、自分だけが大切なら、32トンもある電車を猛暑の中、押したりしないで、駅員に任せておくでしょう、と。人は、守るものがないとなかなか進んで行けないものです、と。

福祉

「最後に私が言いたいのはこれです。自分を、自分の人生を、自分の家族を大切にするため、人の不幸に目をつぶらないため」

「▽▽さん、福祉と接点を持つことは、恥ずかしいことでも何でもない、自分を信じていい、自分を大切にしていいんだよ。そういう思いを持って、出所してもらいたいんです」



福祉を受けて当然の人たち

府中刑務所が、全定協広報係(筆者)の参観を許可してくださった当初(平成25年2月)は、第2回目からの参観に行くこと自体に躊躇していました。刑務所は若い時から慣れているので全く問題はないが、障がいのある人たちへの講義ということで、その人たちの過去や現在を思うと不条理が付きまとい、しかも未来がバラ色とは言い難いのではないか、気持ちも足取りも重かった。

しかし、回を重ねるにつれ、参加型講義と受講生のリアクションが興味深く、自然の成り行きで、私も彼らの一人になっていきました。今では、「~についてどう思う?」とか、講師がみんなに聞くと、私も思わず手を挙げてしまいそうです。

この日の講義でも、講師の話や受講生の「守りたい人」の話に共感するところが多いばかりか、この報告を書きながらも、それを思い出しては一人で悲しくなったり怒ったりしています。

さらには、ここにも「希望」というものは、あるんだ、希望をもっていいんだと思えるようになりました。そう思えるようになるのは、やはり、彼らの背中を押してくれるこの赤平センター長のような存在、そして、その大前提に、この福祉講話を導入した府中刑務所の判断。刑務所を出た後も、彼らを理解しよう、応援しようとする、例えば更生保護施設 ステップ竜岡など、更生保護や福祉に携わる専門家たち。

「福祉と接点を持つことは恥ずかしいことではない」よくぞ、言ってくれました。福祉を受けて当然の人たちこそ、堂々と胸をはって、福祉を受けてほしいと一市民として思います。そして、そういう人たちこそが、受益者になれる公平な社会がいい。

次の参観は9月24日(火)の予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(5)

平成25年7月8日、講師 赤平センター長(東京都地域生活定着支援センター)の府中刑務所における「福祉講話」の授業(障がいを持つ受刑者対象)を聴講させて頂きました。出所で空いた一席を新しい受講生が埋め、本日は病欠一名のため受講生は19名です。講義内容については、こちらもチェック

受講生のプロフィール
20代1名、30代4名、40代9名、50代3名、60代2名で、手帳のある人は5名(身体1、療育2、精神2名)、出所は一番早い人でこの7月、一番遅い人で平成28年です。



前回の復習

who you are
what you want, really

スクリーンには、この画像が出て、講師は、英単語の方をできる人に読ませます。片仮名表記がないのに、ばっちり発音しています。

「前回はこういう話をしたよね、そしてみんなに質問を三つ出して、書いてもらいました」



質問三つと回答いろいろ

Q1. あなたには尊敬(そんけい)できる人がいますか?それは誰ですか?

	・お母さん、お父さん、兄姉、姪
	・お世話になった施設の先生、赤平先生
	・島倉千代子
	・織田信長、みのもんた、(加えて、自分自身とも書いたが、二重線で消した人は、あのZさん)
	・(いるが)今は思い浮かばない
	・いない

Q2. 出所後、やってみたいことはどんなことですか?

	・仕事(今までやっていた仕事や、関連した仕事、新しい仕事)
	・ボランティア活動、社会貢献、世界をよくすること
	・色々なところへ行ってみたい、おいしいものを食べてみたい
	・家族と過ごしたい
	・ない、わからない、考えたことがない

Q3. 10万円あったら、何に使いますか?

	・生活のために使う
	・楽しいことのために使う
	・母のため、家族のために使う
	・貯金する



「私の尊敬する人:母と父、そして島倉千代子」

島倉千代子

窃盗で受刑中の▼▲さん(56歳)が、講師に促され、前へ出てスピーチします。講師は、既に彼との面接をしており、話に感銘したそうです。人に伝えるという事を大切にしてほしいとみんなに話します。


父母には認知症があります。あるとき、地域の公民館で、島倉千代子さんの、コンサートが開かれ、母と行きました。母は島倉千代子が大好きです。

私たちは最前列に座りました。普通はステージから降りてこないという島倉千代子さんが ―目が悪いので― その時には降りてきました。そして、母の手をぎゅっと握り、涙を流しました。

そして私に言いました。「お母さん、大事にしてね」

私は、ここ(刑務所)へ来てしまいましたが、いつも人の力があってやってこれた。ここを出たら、自分のできることをしっかりやっていきたいと思います。


スピーチの途中、彼は、湧き出た涙で声が詰まりました。そうでしょう、聞いている方ももらい泣きです。それにしても、気負わない、すばらしいスピーチでした。



生きるために必要な力とは

「はい、これはどんな力だと思う?」という講師の問いに、

「一人では生きていけないので、助け合って仕事をすること」
「わかんない」
「お金をもらえないと食べてもいけない」
「仕事をしないと生きていけない」
「精一杯の努力」

go forward

「努力ってどういうこと?」という問いに「がんばること」と誰かが答えます。

「なぜがんばる?」という問いに「食べるため、家族のため、誰かのため」と続きます。



「こうやって、一生懸命ノートをとってくれている◇◇さん、にこにこしている○●さん、話さなくても、色々書いて伝えてくれる●▲さん、講師の私にとって励みになっている」



前進する力:できないことをエネルギーに変える

「刑務所にいることは、仕方ないとみんな思うかな?でもその後には、前に進むしかないよね。」「もうすぐ出ていく◎○さん、今、仕方ないって思わないでしょ?次回の講話には、もう◎○さん、いないね」



最後に今日の質問二つ

Q1. 人生の中で、幸せを感じたのはどんな時?
Q2. わかってもらえず、苦しかったのはどんな時?

アンケート用紙が皆に行きわたり、みんなじっくり時間をかけて、書き込んでいました。回収されたアンケートを、筆者も見せてもらいました。刑務所にいない人たち、障がい・高齢者でない人たちでもおそらく一度は共感を覚えるであろう回答は、

  • 幸せを感じた時:「何もしないでボーっとしているとき」「寝ているとき」
  • 苦しかった時:「真意をわかってもらえない」「この先どうなるかわからない」

2週間後の次の講話で、この質問に対するスピーチをやってしまうのでしょうか。残念でたまりませんね。できれば、スピーチは次の参観予定の8月5日まで延ばしてほしいです。



共通点 vs. 相違点

bon.voyage

以前、赤平センター長の講演を聞いたとき、「彼らと私たちと何が違うのではなく、何が同じなのかに思いを巡らせようじゃないか」という事を言われていました。自分も家族も幸せでありたいし、苦しむより楽しみたいし、世の中の人の役に立ちたい。生活に困窮して、判断力に欠いて、誰かに助けを求めるすべを知らずに刑務所に入っている人たちが、こうあってほしいと望むことと、彼らよりは、程度の差はあれ、生育環境に恵まれていて、一般社会で生きてこられた私たちがこうあってほしいと望むことに、天地の隔たりはないと思われる。

だったら何なの?と聞かれると難しいので、今日はハワード・サーマン(アフリカ系アメリカ人の作家、哲学者、神学者、教育者、市民権運動の指導者)の名言を引用して締めます。

”世界が何を必要としているかを考えるのではなく、自分を生き生きさせることを考え、実行しなさい。世界が必要としているのは、生き生きしている人たちだから。”

ハワード・サーマン

次の参観は8月5日(月)の予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(4)

平成25年5月27日(月)講師 赤平センター長(東京都地域生活定着支援センター)の府中刑務所における「福祉講話」の授業を聴講させて頂きました。

前回の授業参観から約2ヶ月半が経ち、受講生の顔ぶれにも変化がありました。昨年度までは、16名だったメンバーが本年度からは20名に増え、そのうち特別調整対象者は7名です(26歳から56歳まで)。出所していった人もおり、新しい受講生は7名で、本日は病欠一名のため19名です。


受講生のプロフィール
知的障がいのある受講生は、20代1名、30代4名、40代9名、50代6名の男性で、療育手帳などを持つ方は6名のみ、残りの方は、精神障がい、てんかん、高血圧・糖尿病、ヘルニア、種々の後遺症などの障がいや疾病があります。

罪名は、8割が、窃盗・常習累犯窃盗で、残りは毒物及び劇薬取締法違反・道路交通法違反・覚せい剤取締法違反・住居侵入です。出所予定は、一番早い方でこの6月、一番遅くて3年後くらいです(満期出所の場合)。



はじめに
「今日が初めての人たちがいますね」30代と50代の二人に、講師が近づき、リラックスして何でも感じたことを素直に言ってくださいと伝えます。

キズナ

パワーポイントには今日の日付です。「昨日、日本ダービーがあったの知ってる?」講師は、キズナという馬が優勝し、その馬の父はディープインパクトという馬で、騎手は武豊という人で、ここ府中の競馬場で開催されたと説明します。誰かが「競馬ですね」と言い、別の人が「(新聞)読んでないからわからない」と言います。次に講師は相撲の話に移り、白鵬が強いね、日本人力士は7年間優勝していないという話をします。受講生の中にスポーツファンはいないのか、だれも目立った反応はしません。



スクリーンには、桜が満開の公園の航空写真が映し出され、「これ、何だかわかる?」と講師に聞かれると、「北海道では今、桜ですね」と、あの精神障害手帳2級をもった生徒がこたえます(彼はよく登場するのでZさんと呼びます)。


ツバメの子どもたち

続く画像は、ツバメの巣で大きな口をあけてエサをねだる子どもたちと親ツバメです。何年も近所の同じスーパーの駐車場の同じ場所で巣作りをしている、店の人も見守ってくれている、と講師が話すと、大きくうなずいている年配の生徒の後ろ姿が見えます。



前回の復習
今日の講話を最後に出所していく人もおり、また近く出所をひかえた人たちも数人いるからか、講師は、出所してからのことを見据えて本題に入って行きます。スクリーンには、

安心

この画像が出て、○の真ん中に何が入ったか憶えているか、みんなに聞きます。これは前回の講話の復習で、真ん中に入る字を「安」と答える生徒がいます。「じゃあ、前回ここからどんな話したか憶えてる?」と講師が聞くと、次々に指された生徒たちは、「忘れた」と答えていきます。


間もなく出所していく◇◇さんは、講師から聞かれると「出てからの事が、やっぱり不安」と言います。出所を間近にした▲▲さんも「どこの施設に入るか不安」と言います。講師は「みんな、安心して安定した暮らしをして来れなかった。これからは、出所したらそういう暮らしをしてほしい、福祉はそういう暮らしを提供する」と。


「恒産なくして恒心なし」 孟子
「衣食足りて礼節を知る」
Zさんが音読し、自分の得意分野だと笑顔です。講師は「今日は学問っぽい話になるけど」と前置きしてから、これらの故事の意味を易しく説明します。「でもこれは、仕事していない人間がダメという意味ではないよ、頑張ろうという気持は安定・安心の状態を保っていないと生まれないということだね」

孟子

続いて、孟子の画像を見せて、いつの時代に生きた人か、その人の教えが日本の教育にどんな影響を与えたか、小学校の道徳の時間に何を学んでいるかなどへも話が広がります。今日は、真剣なまなざしでノートをとっている人が3名。みんな何を思って話を聞いているのでしょう。



講師は「仁・義・礼・智・信」のそれぞれの字の意味するところを分かり易く説明し、生徒たちの名前にもこれらいくつかの文字が使われていることも指摘します。

信じる

「信じるとはどういうこと?」と聞かれ、皆、無言。「自分にも、人にもウソをつかない、誠実でありなさい。そうすれば人を信じられる。そんなきれいごと言われても、おれは刑務所にいるからってみんな思ってる?」と講師が言うと、Zさんが「でも刑務所にいるのは、自分の責任、自業自得です」と。それも一理あるが、例えば経済力のある家族がバックアップして結果的に刑務所へ行かなくてもよくなる人もいると講師が指摘します。

法の下の平等

日本国憲法第14条第1項
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」のそれぞれの言葉の意味を、講師が易しく説明します。

「たとえ刑務所にいたとしても、出れば本来なら平等、でも◇◇さん、不安だよね、じゃあ、なぜ不安になるのかってこと、法の下の平等はあるのかってこと」と講師が言います。「一人でやらなきゃいけないとなると不安になるが、一人でやらなくていい、関わってくれる人がいる、それが福祉」これから面接に行く人たち(名指しで)は、よろしくね、と講師が微笑みます。


失敗と成功
最前列に座っているZさんは、他の生徒たちが自分たちの失敗・成功について講師に聞かれて答える前に「これは、成功、失敗をどうとらえるかで答えが変わってくる、失敗もあれば、成功もあったで、どちらか片方だけということはない」と言い、講師は「Zさんは、私が話をする前に台本を言っちゃう」と笑っています。

虹の彼方に?

本気の失敗には価値がある(宇宙兄弟)
「本気でやって失敗ってどういうこと?失敗にもいろんな失敗があるよね」という問いに、指された○○さんが、「仕事探して、コツコツ頑張っても失敗する」と言うと、「それは、次につながる失敗だよね、何かが生まれるよね」「いい加減にやった結果の失敗は、ドジったっていう程度かな」と講師が受けます。

するとZさんが「その失敗を生かそうとすれば価値がある、だからその人次第です」と言います。「それはそう、あと、周りの人に理解してもらう事が大事だね。周りから、もうお前はがんばってもダメだよと言われれば、本人の気持ちも腐るよね」

Hope

明日があることを幸せと思える生き方:
やり直しができるのが、「福祉」
講師は続けます。「ある人が出所して、福祉にかかわりグループホームに入りました。そこで新しい関係を作っていく中でうまくできず、ストレスを感じ、プイと施設を飛び出した。ところが、所持金がなくて、おなかがすいて万引き。そこにやってきたのが施設の福祉の人で、その人が言うに、▲▲さん、また戻ってやり直そうな。こんなことは、この人にとっては初めてでした。この人の失敗は次につなげる価値ある失敗です。またやり直せる、やり直せばいい、関わってくれる人がいる、理解してくれる人がいる、福祉はこういう考え方です。もうすぐ出所の◇◇さん、土曜日だけど朝早くに迎えに来るからね」


さいごに
今日の授業もあっという間に1時間が過ぎ、講師は皆に感謝の気持ちを伝えます。前回の授業をちゃんと憶えていてくれたこと、考えながら話を聞いてくれること、笑顔を見せてくれること、ただそこにいて聞いてくれること、この時間が一番楽しいと生徒に伝える講師ですが、それは周りにも明白です。

universe

講師と生徒の不思議な時空
授業参観をしていて、いつも思う事は、この赤平センター長という講師と、府中刑務所の知的障がいを持つ受刑中の生徒とが共有する、福祉講話という時間の中での不思議な空間です。講師は生徒を授業の共同構成者として位置づけ、講師はその場面の共有者として、生徒と一緒に意見を言い合う事を楽しんでいるに違いない。一言も発しない生徒たちでさえ、そこにいるだけで、この時間と空間に貢献をしている。なぜそんなことがわかるのかと問われれば、それは、「その場にいないとわからない」としか言いようがない。

講師は生徒を人として尊敬していて、生徒から学ぼうとする対等な関係の存在をそこに感じます。筆者は、人の親なので、自分が子に接する姿勢と照らし合わせて、どうすれば、このように接することができるのか、自己嫌悪を感じつつ、講師の自然体があまりに見事であり、うらやましい。

泥中の蓮華

血となり肉となり
人間が学習した記憶は1週間で大部分消えると聞きます。この講話は2週間に1回なので、2週間後にはほとんど忘れていてもおかしくはないでしょうが、現に「安」という文字が真ん中に入ることを憶えている生徒も何人かいました。福祉が何なのか、福祉が彼らの人生にどう手助けできるのか、この講話で昨年来ずっと行われてきているように、講師が多様な手法で講じてくると、たとえ、2週間に一回の授業でも、消化吸収して自分の一部になっていくような気がするのは自分だけではないと思います。

ある意味、府中刑務所で講話が受けられる彼らは非常にラッキーと言ったら不謹慎でしょか。次の参観は7月8日(月)の予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(3)

平成25年3月18日(月)府中刑務所の福祉講話、3回目の参観報告です。今回の受講生のメンバーは、16名中一人が出所し、新来が充当され、病欠一名のため15名です。この中で特別調整対象者は、4名です。


はじめに

「今年度最後の講話になりましたね」パワーポイントには今日の日付です。「○○さんが今朝出て行き、その代わりに◇◇さんが加わりました」と言いながら、◇◇さんにこの講話はどういう時間であるかを説明し、「思ったことを素直に表現してください」と伝えます。


講師は、ホワイトボードに自分のフルネームを書いて、まだ知らない人たちのために自己紹介をします。この講話は約1年前に始まってから回を重ね、20数回になりますが、最初から受けている人、遅れて入ってきた人、出所していく人と動きがあり、赤平センター長の名前を知らない人もいます。

さくら

春と言えば桜、スクリーンには福島の千年桜と府中の森公園の桜並木が映し出されます。今年は桜の開花宣言が早いので、入学式には散ってしまうのではないか、新入社員がよく担当するという花見の場所取りに間に合わないのではないかと話します。そして、今日は年度末最後の講話なので、具体的なテーマは設定せず、みんなで語り合いましょうと誘います。


ウオーミングアップ

「久しぶりに間違い探しをやろうか」と、桜を背に記念撮影をする家族のイラストが横並びに2枚スクリーンに映し出されます。どこが違うかポンポンと答えが出ますが、あのするどい○●さんが、「間違いは全部でいくつありますか?」と聞いてきます。わかりにくい場所に隠れている間違えに気付いた人が、皆がわかるまで「言いません」と言う人もいます。最後には、○●さんがみんなにヒントをあげたあと、自主的にスクリーンまで行って、間違え部分を指差します。


春のイメージ

「日本では3月は節目、色々な別れや始まりがありますが、みんなは3月にまつわるどんな思い出がある?」と尋ねられますが、自分から答えようとする人はいないので、講師が一人ずつ指名していきます。

spring leaves

最前列に座っている△△さんは、小学校3年生の時、自転車事故で頭と顔に大けがをしてそれ以来、学校へ行っておらず、3月や桜についての思い出はないようです。その隣の人は、沖縄県出身で釣り三昧だったようで、「釣りが花見だった」と答えます。次の人は、今日入ったばかりの□□さんで、「みんなが笑顔でいい顔をしている」「心が落ち着く」と答えます。


順番に指名され、皆、何かしら言っていきますが、こういう抽象的な話題はあまり受けないのでしょうか、春のイメージを聞かれても「ないですね~」とか「家の前の土手に桜が見えたから、別に・・・」あるいは「いつも刑務所に入っていたから、いい気候になったかな、くらい」。


「誰のものでもないそれぞれの人生を」

講師 「今朝○○さんが出ていき、□◇さんも、もうすぐですね、どうですか?」
□◇さん「二度と刑務所に来ないようにします」
講師 「みんなそう言うね(笑)、じゃあ、そのために何する?」
□◇さん「わかんない・・・」


講師  「○◎さんとはこの間、面接したね。残りの人生をどんなふうに使って生きたい?」
○◎さん「まじめに仕事をやりたい」
△▼さん「やっぱり仕事だね」
□○さん「人間関係に上手く入れなかったので平等にやっていきたい」
講師  「平等、難しいね、誰か、平等って書いてくれる?」


前列の新入生がホワイトボードに「妙道」と書き「これは面白いね、新しい発見だ」と講師が顔をほころばせます。


講師は、1年間福祉の話をしてきたが、生活保護を申請するときに「それぞれの人生」がわかっていないといけない、刑務所に来るような苦しい生活ではなく、人間として当たり前な生活をして、幸せを分かちあることができるように、そのために福祉で最低限必要な文化的生活を、と話します。


新年度に向けて

講師はこの一年の変化を振り返り、受講生一人一人に名前でよびかけて、それぞれの今まで表現されていなかった新たな側面や、講師が感じたことや、これからに向けてのメッセージを送ります。

受講生たちも、出所したら、こんな仕事をしたい、ボランティアをしたい、と自身の思いを話します。また新年度からの講話のテーマや教材についても控えめにリクエストしてきます。

彼らの要望にも応えて講師も、出所した時により役に立つ情報をもっと盛り込み4月からやっていきましょうと締めました。

府中刑務所と赤平センター長の福祉講話は、新年度4月からも続きます。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(2)

今回は、受講生よりも先に教室に入って待ちうけていたので、受講生の席が自由席だったことを知りました。分類の職員が「目の悪い人は前へ」と誘導し、それぞれが着席。受講生の希望で先週から始まった自習用のノートと鉛筆2本が希望者の4人へ配られました(ノートは自前で購入)。受講生のメンバーは前回と同一、但し1名病欠のため15名です。


はじめに

「3月に入りました」パワーポイントの画面には今日の日付。講師は「2月はなぜ28日か、3月の曜日も2月と同じなのはなぜか」と聞きますが、誰も答えられないので自問自答になっています。その答えで皆が煙に巻かれている中、講師は「月曜の朝は眠いね」と言いつつ、講義に来るまでに電車の中で起こったことを話します。

「色々あるけど、みんなの顔を見ると元気になるよ」と味わう講師。特に年配の受講生たちは、話を聞きながら本当に楽しそうに笑い、その笑顔を見ているこちらまで楽しくなってしまいます。


イントロダクション

samurai japan

スクリーンにはSamurai JapanとWBCのロゴが出て、対ブラジル戦、対中国戦の話に始まります。次にパワポが、ソフトバンクの北海道犬“お父さん”が「必勝!」と言っている画面に変わると、皆の視線は再びスクリーンへ。

「スポーツには審判がいるね。人間だから、どんなに公平にしていても間違えることがあるね、誤審と言います」と講師に説明されますが、反応はいまひとつ。「この中で、野球に興味ない人、いる?」と聞かれると15人中2人が挙手。

「どういうときに誤審するか知ってる?」という質問に「わざとするんですか?」と返す。今日のイントロダクションは、抽象度が高く難解です。筆者もたぶん皆と同様、今日の授業はどういう方向に行くのだろうと思案します。


今日のテーマ「手帳の話」

前回は“障害者”という言葉・概念についての講話だったそうです。手帳を持つ受講生の一人は、「心ない人がいる、差別用語だ」だから、この言葉が嫌いだと言います。さらに彼は「人は自分の見たいように見る」と発言します。あまりにも真だったので、彼の隣に座っていた筆者は、思わず彼の横顔を見ました「こんなこと言える人が、なぜ刑務所にいるのか」。

講師は、この受講生に、教卓の横のホワイトボードに“我(が)”と書いてもらいます。彼は自分の席に戻りながら「人間の本質は、エゴです」と言い切ります。

次にパソコンの画面には、「身体障害者手帳」「療育手帳―愛の手帳(東京都)」「―緑の手帳(埼玉県)」の実物が映し出されます。講師は、全国共通の身体障害者手帳と地方自治体で異なる療育手帳の違いを、受講生に区別させるため説明します。

手帳についての知識を聞かれると、列車やバスが割引だとか、自分たちの県では温泉券が出る、東京都は博物館の入場料が無料だとか多くの発言が出ます。

講師は、“割引”が“ディスカウント”を意味するのではなく、ロジカルな計算・思考による当然の結果であることを、例を出してわかりやすく説明します(筆者も初めて知りました)。

“障害”、例えば、車いすの人や目の不自由な人が、一生懸命がんばってもできないことはある、同様に勉強や授業がちんぷんかんぷんの人がいる、これは仕方がないことではあるが、「地域の中で生活する・自立する権利」はある、できることなら皆自立したいと講師は続けます。


生きにくさ~わかってもらえない

自分は普通にやっているつもりなのに、わかってもらえないのが、障害だと講師が説明すると、受講生たちから、それぞれの思いがあふれ出るように口を衝いて出ます。

lost_lumb

「わかってもらえない、それが積み重なっていくと、もう言いたくなくなる」「僕は養護施設で保母さんからいつも変だと言われた、真心こめて言っているのに」「認めてもらえない」「人間不信になった」隣で聞いている筆者も、これらを聞いて後ろめたい気持ちです。

「これを言ったら、あとが面倒になるから」あるいは、「自分の判定で誰かの人生が決まってしまうから」「プレッシャーが大きすぎるから」という理由で「それなら言うのはやめておこう」となる傾向はあると講師がまとめます。ここで、冒頭の審判・誤審へとつながるわけですが、ではどうするか。


生き直し~福祉の活用

たとえ誤審で、道を踏み外しても、失敗を犯しても、やり直し・生き直しができる社会がいい。誰でも、いくつになっても、やり直すことはできます、それを保障するのが「福祉」だと説明します。

「だから、福祉を利用しながら生活できるように、皆さんと面接していますね。福祉を利用しながら生き直す、この中でも○○さん、□□さんとは、面接しているね、今度は△△さんともよろしくね」


地域生活・自立生活~自助、共助、公助

「さあ、◇◇さん、自立するってどういうこと?」「みんなで地域で生活して、自分も自立して、お互いに助け合うこと」この答えに講師は大喜びで、褒めまくられた◇◇さんは、恥ずかしそうに丸まっていました。

これに、他の受講生も流れるよう続けます―「人間は一人で生きてはいけない」「自ら立つ」「おかげさま、お互いさま」「我(が)はなくならないが、押さえることはできる」。


「大切なのは場所を変えるのではなく、自分自身が変わること」斉藤茂太

受講生がこれを音読すると、「そうですね、でも、そう簡単に変われないですね」と受講生の一人が発言します。

すかさず講師は、「自分で変えられる人と、変えられないで苦しんでいる人がいる。だから君たちはここにいる」と言うと場が静まります。


知りたいことが次から次へと・・・

hungry for knowledge

今回、最初からうつむき加減だった◎◎さんは、講話の合間に何度も、もう待ちきれないように、質問し始めようとしていました。それもそのはず、細かい字でビッチリ埋め尽くされた自分のノートに始終目をやり、彼は質問する隙を狙っていました。

隔週水曜日と週末の決められた時間を使って、知りたいことを調べて予習し、講義で教わったことをもっと調べて勉強しているらしいと、あとで職員の方が言われていました。

話の腰を折られながらも、講師がそのノートを見せてもらうと「自立支援医療について、日本の障害者の人数について、重複障害、社会福祉法人の運営、国際障害者年、障害者の権利」などの語句が並んでいます。

講師もその熱心さに驚き、喜び、誇りに思い、そのありのままの気持ちを皆の前で表現し、褒めます。◎◎さんは、本当にうれしそう、幼子のような笑顔になります。


今から福祉を知ってほしい、その上で福祉を活用してほしい

講話は月曜の朝10時ぴったりに始まります。講義はいわゆる雑談から入りますが、昨今話題の“雑談力”でも、人間関係を構築する上で雑談は、最良の手段と言われます。計算された授業構成で、1時間の講義に中身が凝縮されています。

知りたい、表現したい、もっといい人生を送りたい、幸せになりたという万人共通の願いが、彼らの中でも活性化される時空が、この講話のエッセンスではないでしょうか。

そこで思い起こすのは、辛辣で抽象的な言葉に聞こえますが、『社会的剥奪』という言葉や、『存在の不在』という言葉です。なぜ彼らがここにいなければならないのか、もし、彼らが、もっと別の環境で育っていて誰かがどうにかしていたら、もし彼らがこれから活用できる福祉を知らずに放り出されたら、と考えてしまうのは無意味でしょうか。

spring flower

まずは、今から福祉を知ってほしい、その上で福祉を活用してほしい、それが講師の願いです。府中刑務所のこの福祉講話は、正に“やり直し、生き直し”のチャンスを与えるきっかけになっているのではないでしょうか。

分類の職員のお話によると、府中刑務所には、この講話の対象者になれる可能性のある人たちは何十人といるそうです。現在16名が選ばれて受講していますが、必要としている人たちはまだ数多くいるということです。

約1年前に始まったこの取り組みは、日本全国の刑務所でも非常に画期的だそうです。どのように導入され、どのような変化を対象者にもたらせているのか、これからどう進化していくのか、2週間後に首席にお聞きする予定です。

府中刑務所における障がい者対象「社会福祉講話」(1)

府中刑務所外観

訂正があります。下に出てくる”教育部門”は間違いで【分類】が正しく、”IQ”は間違いで【IQ相当値】が正しかったのです。失礼しました。

はじめに

平成25年2月4日(月)朝10時から1時間、府中刑務所内の受講生16名を集めて、東京都地域生活定着支援センター 赤平センター長(以下、講師)による恒例の「社会福祉講話」が構内で行われました。この取り組みは平成24年4月から始められ、今回21回目の講義を迎えます。どのような経緯を経て導入され、軌道に乗って行ったのかについては、これから刑務所側に取材していく予定です。まずは、実際にどのような取り組みなのかを、隔週で報告、今回はその第一回目です。

受講生のプロフィール

受講生は、20代1名、30代3名、40代7名、50代4名、60代1名の男性で、療育手帳を持つ方は2名、手帳を持たず知的障がいがある方が6名、その他は、精神障がい、てんかん、高血圧・糖尿病などの障害や疾病があります。

罪名は、約7割が、窃盗・常習累犯窃盗で、残りは詐欺・毒物及び劇薬取締法違反・道路交通法違反・覚せい剤取締法違反です。出所予定は、一番早い方でこの春、一番遅くて2年後くらいです(満期出所の場合)。

イントロダクション:授業の導入部

教室見取り図

日本人なら誰でも知っている“起立・気をつけ・礼”で、「授業」は始まります。講師は、パワーポイントの画面で今日の日付を見せます。「2月に入ったね」生徒を前に、微笑む講師のまなざしが受講生に注がれています。

まず、四季を楽しむという感じで、季節に絡む話題をテンポよく進めます。受講生の節分豆まきの思い出話をたずねたり、巷で人気の恵方巻きの話をしたり(食べ方の作法や言い伝えなど)、プロ野球シーズンが始まってうれしいのはこの中では誰とか、ごく自然に話しかけ、皆をリラックスさせます。

最近の大きなニュースについて

パワーポイントの画面が変わり、「市川團十郎」死去、「アルジェリア人質事件」、「体罰」という大きな字が一枚ずつ現れます。受講生の中には、歌舞伎に行ったことのあると発言する人もいれば、嫌いだと言う人もいるし、体罰で高校生が自殺した事件について知っている人もいました。講師は、これらの事件について簡単に概要を説明し、受講生の反応が明瞭だった体罰について、受講生の経験やその時どう感じたかを聞いていきます。自分から発言する人もいるし、指されてからの人もいますが、皆、自分の気持ちを正直にはっきりと言います。この講義の間は、自分の感じたことを、何でもしゃべっていいのです。

殴られた時は腹が立つ、悪いことをしたのだから体罰を受けるのは当然、どこまでが体罰かが問題、飴と鞭の使い分けが必要と、受講生からいろいろな意見が出ます。私語禁止規則を破ったために刑務所内で受けた罰の理不尽さに触れる者もいます。

今日のテーマ「保護」~保護司・保護観察・更生保護・生活保護

パワーポイントは“保護(会)”と出て、受講生は自身の経験から更生保護施設について知っていることを話します。住む所のない人が、仕事を探しながら短期間集団生活を送るところ、中学で少年院に行く代わりに入った、一部屋に数人でなじめなかったからすぐに出たなど、次々に発言します。

続いてパソコン画面の「保護」の定義(漢字にルビはない)を、IQ30だという40代男性がすらすらと音読します。その隣でIQ40だという50代男性は、意味がわからないと言います。次に、話題は「保護司」へ移り、講師は自身の上着に付けた保護司バッジの「法」という文字をホワイトボードに書いて見せます。

講師と受講生の交わりは続き、保護司と関わったことがあるというほぼ全員から、どんな経験だったか、どんな部分で役に立ったか感想が出ます。次にパソコン画面の「更生保護」の定義の中の“健全”という言葉の意味を問われ、犯罪をすることは健全ではないと説明するものもいます。

続いて「更生保護施設」の説明で、そこでの生活の特色や、地域によって寝床の形態も違うようすを講師が話すと、何人部屋か、携帯電話の契約で住所はそこか、障害年金のはがきは届くか、保険証の住所は、報奨金は1日でなくなる額、生活保護は、病気になったら、と立て続けに質問が出ます。出所時期が近い人は特に具体的に聞いてきますが、時間の関係で生活保護のテーマは、次回へ持ち越しと講師は提案しました。

最後のスライドは、ソ連邦の劇作家アルブーゾフの“幸せというものは一人では決して味わえないものです”という名言と、“反省は一人でもできるが、更生は一人ではできない”という引用で、「人」という字の通り、支え合って生きましょうと講師は結びました。これには、受講生よりも専門職の人たちの方が大きくうなずいていました。

府中刑務所正門正門への道府中刑務所外回り

府中刑務所の外回りも構内も、整然としていて手入れが行き届き、きれいです。

“共創”の素晴らしさ~視察第1回目の感想

共創

刑務所側からの報告では、受講者のIQ値は30~50台が約8割で、残りは70台です。IQがどの程度なら、この講義を聞いてわかるのかという疑問よりも、あの時間と空間を皆で共有し、わかってもわからなくても真剣に話を聞いて質問し、言葉を発しなくても何かを思い、考えるのでしょう。薄幸な過去を振り返るような療法とは無縁の、今を享受し、もっとよくなるために知りたいことを教えてもらえる、実用的な知識を得られる、非常に前向き・建設的な取り組みです。

講義(と言うよりも、知的な交流という感じ)は、役に立つ具体的な情報を得られ、しかも自分の意見を自由に言える場です。運び方もメリハリがあって、1時間と言えば一般的に集中力も続かないと思いますが、あとからあとから話題が移っていくので、飽きさせないのです。受講生たちは、このような機会を楽しむ場面が今まであったでしょうか。最後になりましたが、やはり、講師が相互作用を楽しんでいるところが、皆をひきつけるのではないかと感じます。次回の講義が今から楽しみです。

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