入口支援
矯正施設を退所した高齢・障がい者の社会復帰と全国のセーフティネットの構築に向けて
一般社団法人 全国地域生活定着支援センター協議会(全定協)
2020-02-17 (月) 14:38:45
入口支援
罪に問われた障がい者・高齢者が、「被疑者・被告人」段階、いわば「入口」(取調べ、司法手続き)の段階で、福祉の支援を必要としている場合があります。全国47都道府県の地域生活定着支援センター(定着支援センター)は、その主な業務として「出口」(社会復帰)支援を行っていますが、長崎定着や島根定着などのように、モデル事業や、相談支援の一環として「入口支援」を行い、福祉につないでいる定着支援センターもあります。
しかし、多くのケースを抱える定着支援センターは特に、体制的に「出口支援」の業務で余裕がありません。そんな中、南高愛隣会は、2010年7月から独自に「入口支援」に関わる領域でモデル事業を行ってきました。そして、そのプロセスにおいて、様々な手法を開発し、2013年、平成25年社会福祉推進事業「切れ目のない支援」として、これまで行われてきた様々な事業の継続と、さらに新たな事業を立ち上げ、長崎や、宮城・和歌山・滋賀・島根・東京で実施します。
「調査支援委員会」
調査支援委員会の成り立ち
2010年7月~2011年8月まで、南高愛隣会により実施されてきた「判定委員会」に始まり、それに続く2012年6月~2013年3月までの「障がい者審査委員会」を経て、今年度は「調査支援委員会」と名称を一新し、さらに進展して2013年8月からスタートました。
今年度は、モデル事業として、宮城・和歌山・滋賀・島根・長崎の5県が委員会の運営に参加します。
期待される効果
- 従来の刑事司法手続きに福祉的観点からの客観的・専門的な意見を取り入れることで、障がい特性や成育歴等に配慮した処分や量刑判断、または個別性を重視した矯正プログラムが可能になる。
- 本人の障がい特性等に合った適切な福祉的更生支援を受けることで、早い段階での効果的な社会復帰・再犯防止につながり、引いては、社会の中で安心して暮らせる「居場所」を得ることにもつながる。
事務局(誰が調査するのか)
長崎では、警察から裁判までの「入口」支援を専門に行う「司法福祉支援センター」を設置し、そこを調査支援委員会の事務局として、福祉の支援が必要と思われる「被疑者・被告人」・執行猶予となった障がい者等について、福祉への環境調整を行います。対象は、比較的重い事案を中心に実施します。
その他の県では、社会福祉法人などが事務局として機能し、対象者に関する調査や情報収集を行います。
目的
刑事司法手続きの中に、福祉的観点からの客観的・専門的な意見を取り入れること(更生支援・矯正プログラム・特別調整・仮出所など)。
役割
罪を犯した背景となった障がい特性や成育歴等を精査し、福祉による更生支援の可能性はもとより、地域で生活していくために望まれる矯正施設または退所後の処遇プログラムのあり方を検討し、必要に応じて福祉施設等への受け入れ調整を行います。
検討事項(何を調査するのか)
- 犯罪に至った(罪を問われた)背景・要因の調査
- 障がいの艇庫・障がい特性・医療状況など
- 成育歴・家庭環境・生活環境など
- 福祉による更生施設プログラムの検討・精さ
- 福祉による更生支援にあたっての留意点(配慮すべき点など)
- 矯正施設内処遇プログラム上、参考となる福祉的助言など
- 特別調整による早い段階(仮出所)での福祉による更生支援の必要性の有無
構成員(誰が検討するのか)
- 精神科医
- 更生相談所・児童相談所・心理判定士
- 社会福祉士・精神保健福祉士
- 有識者
- 障がい者相談支援専門員
- 臨床心理士・作業療法士
島根県地域生活定着支援センターによる「調査支援委員会」
「更生への体制整う」島根地裁益田支部
「島根県障がい者調査支援委員会」がまとめた被告の支援計画が評価され、詐欺罪に問われた知的障がいのある男性に、執行猶予付きの判決が言い渡された。詳細はこちらの記事2014年1月24日付け
「第1回 司法と福祉の意見交換会」
島根県での「障がい者調査委員会(仮称)」の設置に向け、司法と福祉の関係機関が共通理解を図るとともに、課題等について話しあう「第1回 司法と福祉の意見交換会」が、平成25年8月22日(木)に松江市内で開かれました。出席者などはこちら。
平成25年8月6日(火)に行われた南高愛隣会の平成25年度社会福祉推進事業「切れ目のない支援」の会議に出席されていた法務省司法法制課長や最高検の検事たちも参加し、司法法制課長(松本裕氏)は、8日の会議同様、「調査支援委員会」の概要を、島根県の試行に向けて、さらに突っ込んで説明しました。あくまでも試行段階であるので、柔軟に対応を、と強調していました。
「調査支援委員会」の概要
法務省大臣官房司法法制課長 松本氏の説明のポイントは、
- 究極の目的は、再犯防止であり、
- 対象事件は、原則として被告人段階の事件であること、但し、公判請求が見込まれるような事件について、被疑者段階からの調査を開始することは差し支えないこと、
- 医療・福祉の専門家で構成される当委員会の事務局は島根県社会福祉協議会に設置し、
- 委員会が、弁護人から提供を受けた資料等に基づき、犯罪に至った背景となった障がい特性や成育歴等を調査し、福祉による更生支援のあり方、地域生活への円滑な復帰のために、施設内処遇または社会内処遇において配慮が望まれる事項などを検討して報告書を作成し、弁護人に提出、
- 対象者が実刑になった場合、報告書は刑務所へも送られ、出口支援で参考にする、
- 当委員会による調査は、弁護人の申し立てにより開始すること、
- 弁護人は、当委員会の調査検討に必要と認められる情報を提供し、
- 弁護人は、当委員会から提出された報告書を裁判所に証拠請求、
- 試行の開始時期は、本年度9月以降、
- 要検討事項として、当委員会メンバーの構成と活動内容、資料の提供方法、報告書の内容、開始時期
島根県障がい者調査支援委員会(仮称)
きれいな全体像をダウンロードするにはこちら
島根定着は、当委員会の運営要綱(案)で詳細を定めています。
この調査委員会が、島根県における「罪に問われた障がい者」の特性に配慮した福祉的支援の仕組みの、どこに位置するのかについては、そのイメージ画像は、
よく見えるイメージ図をダウンロードするにはこちら
社会内訓練事業・更生プログラムの開発・更生支援の検証
イメージ図にもあるように、この仕組みには、社会内での具体的な受入先が必須です。また、社会内訓練事業・更生プログラムの開発・更生支援の検証がセットになっていて、誰が・どこが、どのように実施するのかは、島根方式を創り出してほしいという発言が、前述の松江での意見交換会でも、田島良昭氏や法務省からも出ていました。
ちなみに、長崎では、一連の厚労省科学研究を何年も前から行ってきた結果、南高愛隣会の「あいりん」で行われている地域社会内訓練事業で、2年という期限付きの個別支援プログラムを大学の先生等の有識者が作り、その更生支援の効果や妥当性を、中立な立場にある県行政や弁護士が検証しています。個別支援プログラムの一例はこちらの新聞記事からどうぞ。
2013年8月
2014年1月
田島氏曰く、この「検証」が非常に大事で、裁判官が判決を下すときに、検証によって証明された福祉的更生支援の効果の、その威力が発揮されると。同時に、そのような効果の威力を、検証で発揮できる個別支援プログラムをつくること自体が難しく、全国では皆苦戦をしていると。
罪を犯した人に対する利用支援協力事業所連絡会議
高齢・障がいを有する被疑者・被告人及び矯正施設出所者等の受け入れに関し、
- 理解を示す福祉事業所間のネットワークを構築し、
- 支援に関しての情報を共有し、
- 受け入れ事業所の不安や負担の軽減を図り、
- 新たな受け入れ促進に資するため、
島根定着では、罪を犯した人に対する利用支援協力事業所連絡会議(連絡会議)を設置します。連絡会議の会員の構成や専門部会、役割等の詳細はその要綱に網羅されています。
事務局である島根県社協及び島根定着は、受け入れ施設の福祉事業所に対して、福祉の支援を必要とする罪を犯した障がい者・高齢者について、簡潔かつ明瞭に文書で説明し、同時に、連絡会議への加入をお願いします。
全体の支援実績(平成22年4月~平成24年度末)
島根定着により作成された資料から抜粋
1. コーディネート業務
- 特別調整(高齢・障がいのある、帰る場所のない出所者):63件
- 一般調整(高齢・障がいのある、帰る場所のある出所者): 8件
2. フォローアップ業務
上記合計71件のうち、県内に帰住した18名で、そのうち、
- フォローアップ中:15名 (障がい者9名、高齢者9名)
- 再犯により終了: 2名(障がい者・高齢者)
- 所在不明・辞退により終了:1名(高齢者)
3. 相談支援業務
合計37件で、その内訳は、
- 本人 9件
- 地方検察庁 8件
- 弁護士 6件
- 地域包括支援センター、相談支援事業所など 4件
- 矯正施設 3件
- その他(保健師、NPO法人) 3件
相談支援業務の中での入口支援の実績
島根定着では、相談支援の一環として、平成25年7月末までに、9件の入口支援を行ってきました。帰住先は、松江市内・市外および広島県を含みます。
例1(窃盗、器物破損、住居侵入):
松江保護観察所からの依頼(平成23年4月):身体・知的・精神障がいを持つ男性は、特別調整対象者で、ケアホームでの受入直前に万引きで逮捕されました。勾留中に本人面接や弁護士との協議を行い、被害弁償と弁護士を介して更生計画書等を提出し、受け入れ予定の施設も再度の受け入れを約束してくれました。結果として、不起訴になり、当施設に入って、現在も安定した生活を送っています。
例2(窃盗):
松江地方検察庁からの依頼(平成24年4月):知的障がいのある男性は、勾留中に、検事が島根定着へ相談を持ちかけ、勾留終了後、本人を出迎え、後日家族や本人と面接を行いました。本人の国選弁護人と協力して、受け入れ可能な法人を探しました。その結果、受入先も決まり、ショートステイと就労支援を利用し、現在はグループホームで、就労支援の利用を継続しながら安定した生活を送っています。
例3(傷害):
松江警察署からの依頼(平成24年10月):精神障がいのある男性は、警察署が勾留中に島根定着に相談をし、面接後、松江地方検察庁へ連絡。釈放後は生活保護やアパートの調整を行い、現在安定した生活を送っています。
支援対象者の概要(同じく平成24年度末までのデータ)
- 年齢
65歳~ 41%
60歳代 14%
50歳代 20%
40歳代 14%
30歳代 8%
20歳代 3%
- 種別
高齢 30%
知的障がい 30%
身体障がい 20%
精神障がい 20%
- 罪名
窃盗(空腹から万引き)67%
詐欺(空腹から無銭飲食)11%
その他 22%
- 帰住先
アパート 24%
グループホーム 17%
再犯・行方不明 17%
精神科治療入院 13%
養護老人ホーム 10%
自宅 4%
救護施設 4%
ケアホーム 3%
知的障害者入所授産施設、自立訓練・就労支援B型事業所、NPO法人施設、更生施設、軽費老人ホーム それぞれ1%